• 宮崎 勇気

7.補論②困難を乗り越える経営:禍転じて福となす⑥


7.補論②困難を乗り越える経営:禍転じて福となす⑥

 不況などの逆境にあって、最も大切なことは『将来の成功』への“希望”を捨てないことだ。そこで、“絶望”し、気力を失えばお仕舞である。松下幸之助は言う。「困難に直面したときに、それをどう考え、処置するかで、飛躍か後退か決まる。不安を抱き、心配したり、誰が悪いと憤慨しても、そこからは何も生まれない。心も萎縮し、知恵も出てき難い。」そうならないよう“強い心”を持ち続けるために必要な“心の持ち方”とは何であろうか?

 それは何よりもまず第一に“人間の心は弱いものだ”という“人間の現実の姿”をしっかり認識することであろう。

 なぜならば、自分は心が強いと思い込んでいる人ほど実は打たれ弱いからである。勿論、一定の程度までは、そこそこ強いのであるが、ある一線を超えると意外に脆いのである。また、『自分の心は強い』と思い込んでいる人は、自分の心を鍛えようとはしないからである。その必要性が理解できないから、『心を鍛える』という"発想"も“行動”も出てこないのだ。

 それ故、逆説的ではあるが、自分自身を含めて“人間の心は弱いものだ”という“事実”をしっかり認識すれば、“自分の心を強くする”ために“心を鍛える”必要性を理解することができ、“心を鍛える”ための“行動”を起こすことができるからである。それ故、『自分の心は弱い』と認識できている人は、それを鍛えることによって、結果的に『自分は心が強いと思い込んでいる人』よりも強くなることができるのだ。いわば、コツコツと努力を続ける“亀”が、自分の才能に自惚れて努力を怠る“うさぎ”を遂に追い抜くようなものだ。

 この点、松下幸之助は、“不屈の経営者”のように見られることが多いが、実は、元々決して強い心の持ち主というわけではなかった。この点、次の様に述べている。「私はよく若い人たちに、信念をもてとか使命感をもって仕事をせよとか言うのであるが、私自身どうかというと、別に人よりも強い信念や使命感を常にもっているわけではない。むしろ、ともすればくじけそうになるし、またときに煩悶もはげしいものがある。しかし、そういう弱いといえば弱い自分ではあるが、また心をとり直し、勇気をふるい起こして若い人たちにも言うのである。そしてそのことによって、私自身も、その信念を自分のものとしてより強固にしていっているといえる。信念とか使命感といったものは、終始一貫して持ち続けることはなかなかむずかしいものである。たえず自分自身をはげましていなければならない。」(「思うまま」p.22)

「人間は頼りないものである。いかに強い決意をしても、時間がたてばやがてそれが弱まってくる。だからそれを防ぐためには、常に自分自身に言い聞かせる。自分に対する説得、戒めを続けなければならない。」(「松下幸之助一日一話」p.184)

 従って、第二に、“人間の心は弱いものだ”という“事実”を認識した上で、“自分の心を強くする”ために“心を鍛える”こと、要は、『繰り返し自分自身に言い聞かせる』ことによって、一つの考えを“強固な信念”とするということである。

 松下幸之助は、『成功の秘訣は何か?』と問われたときに、この点を挙げている。「私は、何事によらず、それを成し遂げるためにもっとも大切なことは、まずそのことを強く願うというか、心に期することだと思うのです。なんとしてもこれを成し遂げたい、成し遂げなければならないという強い思い、願いがあれば、事はもう半ばなったといってもいい。そういうものがあれば、そのための手段、方法は、必ず考え出されてくると思います。」(「経営のコツここなりと気づいた価値は百万両」p.69)

「誰もが同じように成功を願っているけれども、果たして本当に自分の心の底からの強い願い、「何としてもこれを成し遂げたい」という決意にまで高まっているでしょうか。単なる一応の願いに止まっていないでしょうか。そこに結果に大きな差が生じる一つの要因があるのではないでしょうか。(成功・失敗)の大きな違いは、事の実現を願うという出発点の内にあるように思われます。」

 そして、これが松下幸之助の経営哲学を実践する上で不可欠の方法なのである。つまり、松下幸之助の経営哲学上の様々な概念は、それらを単に“理解する”だけでは、不十分であり、それらが“疑い”の余地なく“正しい”と心から思うこと、つまり自身の“強固な信念”となるまで“自分自身に言い聞かせること”が必要だ。“信念”は、潜在意識のレベルにあって、外部の同じ刺激に対しては常に同じ反応を示すいわば“心のソフトウエア”を形成する。そこには、“人間の心の弱さ”が生み出す“疑い”や“不安”の入り込む余地はなく、自分の正しいと考える(信念の)方向に向かって“考え”、“行動する”ようになる。人間は、自分の“信念”に沿って、物を考え行動するようにできているからだ。

 この点、アンドリュー・カーネギーから依頼を受け、米国において当時成功していた経営者200名にインタビューして、“成功哲学”を研究したナポレオン・ヒルは、その成果として、6つの成功の原則をまとめた。そこでは、自らの願望をはっきりさせて、その実現を決意するだけでなく、その「願望に信念を結びつけること」を挙げており、“信念”の力を活用することがその重要な要素とされている。

 松下幸之助は言う。「社会生活は日々これ戦い、日々これ苦難。その時に心が動揺するかしないかは、信念の有無で決まる。」

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(お知らせ)関連のブログも併せてご覧いただければ幸いです。100周年を迎えた現パナソニック株式会社の創業者であ  る“松下幸之助の経営哲学”の現代の諸問題への応用として、最近の話題等をテーマにしたブログです。最新の記事は、 「成功者の条件~自分の潜在能力を最大限に発揮するために~②」です。

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