• 宮崎 勇気

5)組織の力(1)事業目的を共有する ③


5)組織の力を最大限に発揮させる

(1)正しい方向に向け、事業目的を共有する ③

 また、“目標を設定すること”は、それ自体に重要な意義と効果がある。

 それは、第一に、目標を設定し、その達成を決意することによって、目標の実現に向けた“エネルギー”がそこで生み出される点である。人のエネルギーは、初めからあるのではない。設定する目標とそれへのコミットメントによって生み出されるものである。それ故、目標が高ければ高いほど、個人にも組織にも、より大きなエネルギーが生まれる。

 それに加えて、世の為人の為になるような大きな目標を設定することは、人間の“利他的な本質”に火をつけて、さらに大きな“意欲”と“エネルギー”を生む。

 そして、それは裏を返せば、個人も組織も、大きな成果を生み、大きく成長する可能性が高まるということでもある。逆に低い目標では、生まれるエネルギーも小さく、その成果や成長も低くなる。

 第二に、個人も組織内の各部署もその目標の実現に向けて、自分や自分たちの“向かうべき方向”と“果たすべき役割”を考え、それに“必要な能力”を取得するなど、個人レベルと各部署レベルの双方で、あらゆる組織内の活動がその目的の実現に向けて“組織化”され、すべてのメンバーや部署の力が目的に向けて適切な“役割分担”の下に同じ“目標”に向けて“効率的に結集”されるとともに、全員の力の“集中”によって“大きな力”を生み出すのである。それによって、1+1が3にも4にもなる。単なる“足し算”ではなく、“掛け算”の大きな推進力を生み出し、その目標を実現する可能性を格段に高めることとなる。

 一旦設定された“正しい目標”が、上述の効果を真に発揮するためには、その“正しい方向”と“正しい目標”を組織のメンバー全員が真に“共有”し、それぞれの部署や個人が役割を良く認識することが重要である。組織の目指すべき方向と目標を真に共有できていないと、何が起こるか。

 人間は、誰も“自分が一番可愛い”から、“自己中心的な考え方”に戻ってしまい、“自分”の側に立ち、“自分”の方に向かって、“自分の利害や感情”等のために考えて行動をし始めるのだ。それが、組織の中で部署間や個人間での“対立”や“衝突”、“非協力”を生み、その結果、組織がグループや個人に分断され、組織の力が分散してしまい、最悪の場合には、目標を達成できなくなってしまう。それは、まず個人のレベルで起こる。“自分の利害”を優先し、自分の成果となることを優先し、他人の成果となることへの協力を拒み、あるいは、惜しむ。また、“自分の感情”を優先し、過去の恨みをはらそうとしたり、気に入らない個人の足を引っ張ったりする。

 さらに各部署という組織のレベルや非公式のグループ、いわゆる“派閥”としても起こる。そうなると、夫々の目指す方向がバラバラとなって、組織はまとまらず、夫々の部署等は自分の部署の目的の達成を最優先し、全体の目的や他部署の目的を犠牲にしてしまう(“部分最適”)。

 これに対して、組織の構成員が、皆“同じ方向”を向いて“同じ目標”を心から共有している組織は強い。“共有する目標”があれば、個人間や部署間でどのような仕事上の“問題”や“対立”が起こっても、常にその“共有する目標”という共通基盤に戻れば、同じ方向に向きを揃えることができる。そうすれば、その“問題”は単に目の前の“克服すべき両者に共通の課題”に変わり、両者が互いに協力してその解決策に向けて、知恵を出し合うことができるようになるからである。

 この点、松下幸之助の経営哲学は、人間がその心の奥底に本質的に持っている“人の役に立つ(利他)”という精神を踏まえて、“事業を通じて社会に貢献する”あるいは“社会の発展の原動力となる”という“高い志”を共有しようとするものであり、“組織の進むべき方向を示す羅針盤”として機能するだけでなく、組織内の“対立”や“争い”を相対化し、それらを解消するために常に立ち返るべき“共通基盤”を提供するという実践的意義があると言える。上に述べたように、組織内の“対立”や“衝突”は、“自分の利害や感情などの私心へのとらわれ”からくるものであるから、各部署の長や社員たちが、それを“社会の発展”という“公的欲望”に転換することができれば、“私心”は消えるか、あるいは、抑制することができるから、“対立”や“衝突”の源が無くなる。また、後に述べるように松下幸之助は、「信条」において社員たちに「自我を捨てる」ことまで求めたのも同様の趣旨である。

 ただ、そのように組織のメンバーが目標を真に共有できるようにするためには、その目標は、“メンバーの誰もが共有したいと思えるもの”、つまり、メンバーが実現したいと心から願うようなもの、“夢”でなければならない。例えば、企業レベルではないが、2020年の東京オリンピックの開催は、そのような夢と言えるであろう。そのような“夢”が、社員たちの目指す“方向(ベクトル)”を決め、実現への“意欲”と“エネルギー”を生み出すのである。それが、夢を心から実現したいと願うことが“強固な信念”となると、“プライミング効果”を生み、活動の“結果”を待たずに、目標の実現に向けて活動する“プロセス”自体がワクワクする楽しいものとなり、脳内物質のドーパミンが分泌され、脳が活性化し、潜在能力が発揮されるのである。こうして“夢”が個人のレベルと組織のレベルの双方において、まるで“磁石”のようにベクトルとエネルギーを生み出し、“夢の実現”に向かわせるのである。

 “実現したくなる夢”を社員たちに示すことは、経営者の果たすべき重要な役割であると、松下幸之助は強調する。そして、実際に、松下幸之助は、昭和30年頃には“五か年計画”を発表し、また、昭和35年には、“週五日制”の実施を5年後に行うと発表した。松下幸之助は、これらを発表したのは、社員に夢あるいはしっかりした目標を持たせたかったからだとして、次のように述べている。曰く、「経営者としての大きな任務の一つは、社員に夢を持たせるというか、目標を示すということであり、それができないのであれば、経営者として失格である、という気がするのです。」(「経営のコツここなりと気づいた価値は百万両」pp.74-75)“夢”は、社員たちを未来に向かわせる“ベクトル”を生む磁石であり、“エネルギー”の源泉となるものだからである。

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#正しい方向に向け事業目的を共有する

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