• 宮崎 勇気

5)組織の力(1)事業目的を共有する ②


5)組織の力を最大限に発揮させる

(1)正しい方向に向け、事業目的を共有する ②

 それでは、これらの場合について努力が活きるようにするにはどうすればよいか?

 それは、“正しい方向”に向けて“正しい目標”を設定するということに尽きる。“目標の設定”は、活動の結果の“価値”を決め、それを達成するための、その後の活動の“質”をも決めるという点で事業活動において最も重要であると言ってよい。

 事業活動の結果は、通常この目標を大きく上回ることはないから、目標自体が低い場合には、その結果も大きなものとはならないのは、当然である。ましてや、“間違った方向”に向けて“間違った目標”を設定する場合には、いわば “ボタンの掛け違い”となって、それ以降のすべての活動や努力が、全く無駄になるか、あるいは、場合によっては、自社のブランドを傷つけるなど負の結果をもたらすことにもなる。また、目標自体を持たないという場合には、その後の活動が、その場その場での市場の現象に対応するだけの一貫性のない“場当たり的な”活動となって、非効率なものとなり、大きな成果も企業としての成長も生れない。それ故、まずは“正しい方向”に向けて“正しい目標”を設定することが何よりも大切である。

 松下幸之助は、言う。「何が正しいかを考え、信念を持って為すべきを為す。・・・それをするかしないかが、成否の分かれ道である。」ここで、「何が正しいかを考え」「為すべき」ことを決めることとは、“正しい方向”に向けて“正しい目標”を設定することに他ならない。そして、その“正しい目標”の実現を“強固な信念”となるまで「強く願い(う)」、その“信念”に従って、ブレることなく、やり抜く。それが、事業の“成否の分かれ道”、つまりその“成否を決する”というのである。

 翻って、“事業の失敗”は、これらのいずれかの点に過ちがあることに帰するのだと松下幸之助は断言する。曰く、「うまくいかないのは、為すべきことを考えていないか、考えていても、やっていないからだ。」

 さらに、リーダーの役割もこの“正しい目標”を設定し、それをやり遂げることにこそあるとして、次のように述べている。「指導者の要諦とは、見方によっては、この“なすべきことをなす”ということに尽きるとも言えよう。」(「松下幸之助一日一話」p.138)

 ところが、実際には、“為すべきこと”を定める(正しい目標の設定)ということは、必ずしも容易ではない。リーダーを含めた組織の人間の“自己中心的な物の考え方”やそこから生じる“心の弱さ”が働いて、“正しい方向”からは外れた“自分のやりたい目標”を立てたり、失敗を恐れて、確実に達成できると思われるような“低い目標”を立ててしまうことが少なくないからである。自分(たち)の利害や感情などの私心にとらわれた結果、視野狭窄となり、“正しい方向”や“正しい目標”が見えないのである。

 そこで、松下幸之助は、そのようなことに陥らないように、“高い視点”と“広い視野”から“正しい方向”を見い出し、“正しい目標”を設定することができるように導く思考のフレームワークを提示している。まず“とらわれない素直な心”を持つことで、私たちの意識を“私心へのとらわれ”から解放して、中立的な立場に立たせる。それによって初めて、それまで“とらわれ”て縛られていた自分(たち)の利害や感情などの“私心”以外のことに心が開かれ、認識することができるようになる。

 例えば、“自社の現在持つ技術からどんな製品ができるか”と発想するのではなく、それらを一旦脇において、それらにとらわれずに、“生成発展の原理”という“自然の理法”を踏まえて、より大きな視点から、“限りなく生成発展していく未来の社会”をまず見る。その上で、そのような“社会の発展”を実現するという“人間の使命”を果たすという大きな発想から、“そのような社会の発展の原動力となるために自社に何が求められているか”を考え、自社の“為すべきこと”を決めるのである。

 両者は、立ち位置が異なる。つまり、“現状”に立って、“自社”を眺め、現在の自社の実力をベースに何ができるかを考えるのではなく、“将来”に立って、“既に発展している将来の社会の姿”を眺め、その発展の原動力となるために“自社は何を為すべきか”と考えるのである。そのようなフレームから出てくる目標は“私心”や“現在の自社の技術”などの制約のない、真に将来の社会が求めるような“高い目標”となる。そのような高い目標に挑戦することが、大きな成果と企業としての成長を生む。

 このような考え方に対しては、“自社の現在の実力”を無視して“夢”のようなことを語ってみても、“非現実的”だとの反論もあるかもしれない。しかし、現状に立ち位置を置く発想では、その企業の大きな成果や成長の可能性を自ら“削除”してしまう結果となる。一方、その高い目標の実現のために組織に必要な能力は、目標を設定する時点で、必ずしも存在することは必要ではなく、それを実際に必要とする時までに取得すればよいのである。つまり、それらは目標設定に際しての“障害”と考えるべきではなく、その能力がないから、その目標は諦めるべきだと考えてはならない。今後目標を実現していく過程において解決されるべき“課題”にすぎないと考えるべきなのである。つまり、そのような能力を獲得する方法は、社内の社員の教育や外部からの人の採用やM&Aなど様々な方法がありうる。

 私たちは、通常“現在の自分たちの技術や能力”を前提として、そこからできる範囲の目標を立てるというアプローチをすることが多いが、それは順序が逆なのである。それでは、視野が狭くなり、可能性を潰してしまう結果となる。

 最近、“ソーシャル・ビジネス”という言葉が注目を浴びている。これまでの資本主義や社会政策の枠内では解決しえなかった社会的課題をビジネス的手法で解決しようというものである。そこにある発想と気概は、まさに松下幸之助が打ち立てた「社会の発展の原動力となる」という理念にあるものと同じである。松下幸之助は、創業から十数年経ったところで、当時の社会的課題を“貧乏の克服”にあると捉え、それを解決するために、後に“水道哲学”と呼ばれた考え方、生活必需品を水道の水の如く大量かつ安価に供給することを目指したのであった。松下幸之助の事業観は、まさに“ソーシャル・ビジネス”そのものであった。松下幸之助は、「企業は、社会とともにある限り永遠に発展するし、そうでなくなったら、やがて衰退する。」(1983年2月1日松下政経塾塾報より)と述べ、「これが発展と衰退を分ける“真理”である」と断言する。

 これは、“為すべきこと”が何かを考えるに際して、一つの視点を提示するものである。つまり、企業は、“自社の利益”だけを考えるのではなく、“社会”とともにあり、“社会の発展の原動力となる”ような商品を世に生み出していく限り、結果として、社会とともに発展していくというのである。つまり、“社会の発展”が先にあり、それを前提として、“自社の発展”もありうると考えるのだ。自社の商品が社会の発展に役立つものである限り、人々が、その商品を“支持”し、買ってくれるからである。それは、決して“易き道”ではなく、困難の多い“荊の道”であることも多い。しかし、結局はそれが“確実な道”であり、“商売の王道”なのである。経営者は、そこに意識をフォーカスしなければならない。

 このように松下幸之助の経営哲学は、特に経営環境が激変し、経営の方向を見失いそうになる不確実性の時代にこそ、時代を超えて国を超えて妥当する事業の“正しい方向”、つまり“商売の王道”を示す“経営の羅針盤”の機能を果たすものである。

Copyright © 2017 Yuki Miyazaki All rights reserved.

#正しい方向に向け事業目的を共有する

最新記事

すべて表示

5)組織の力(5)“目に見えない要因”に対処する⑤

松下幸之助は言います。「早い話が金魚な。あれを飼うのに金魚そのものを考えるだけではあかんわね。水を考えんとね。金魚ばかり考えて、水を軽視したら、金魚、すぐ死んでしまうがな。」「まずは肉眼で見えるものを見て、会得する。次に肉眼では見えないもの、精神的なものを見る。その見えないものを

5)組織の力(5)“目に見えない要因”に対処する④

松下幸之助は言います。「人間というものは、気分が大事な問題です。気分がくさっていると、立派な知恵、才覚をもっている人でも、それを十分に生かすことができません。しかし、気分が非常にいいと、今まで何ら気づかなかったことも考えつくというように、だんだんと活動力が増してきます。そこから成

5)組織の力(5)“目に見えない要因”に対処する②

松下幸之助は言います。「正しい経営理念があってこそ、企業の健全な発展もあるといえる。刻々に変化する社会情勢の中で、次々と起こってくるいろいろな問題にあやまりなく適正に対処していく上で基本のよりどころとなるのは、その企業の経営理念である。また、大勢の従業員を擁して、その心と力を合わ

  • Black Facebook Icon
  • Black Twitter Icon
  • Black Pinterest Icon
  • Black Flickr Icon
  • Black Instagram Icon

Copyright © 2016 Yuki Miyazaki  All rights reserved.

This site was designed with the
.com
website builder. Create your website today.
Start Now