• 宮崎 勇気

5)組織の力(1)事業目的を共有する ①


5)組織の力を最大限に発揮させる

(1)正しい方向に向け、事業目的を共有する ①

 事業活動を行う上で、他社以上に社員たちが“努力”することは大切である。それなくしては、他社との競争には勝てない。しかし、ただ努力すれば勝てるというわけでもない。社員たちの努力が活きるには、その組織の目指す方向と具体的な目標が明確であり、しかもそれらが“正しいもの”であることが必要だ。もしそれらのいずれかに“問題”がある場合には、個々の社員の努力も活きないからである。

 ここで“問題”がある場合というのは、次の三つの場合である。

 第一に、“組織が目指す方向”も“具体的な目標”も定まっておらず、都度行き当たりばったりで活動をする場合である。“目指すべき方向”と“達成すべき具体的目標”がなければ、どこにも辿り着かず、せっかくの“努力”も無駄になる。

 第二に、その方向や目標が“間違ったもの”であるときには、努力をすればするほど、“本来目指すべき方向や目標”から離れて行き、むしろ“間違った方向”に向かって進み、最終的には“間違った目標”に組織を挙げて“効率よく”到達してしまうという結果を招くこととなる。

 第三に、方向は正しい方向に向かっているが、具体的に達成すべき目標自体が“低い”ものであると、当然ながら大きな成果は生まれない。

 以下これら三つの場合を具体的に見て行く。

 第一の「方向性も具体的目標も持たない場合」というのは、どういう場合か?

 例えば、企業レベルでは、将来に向けて組織が目指すべき戦略(顧客に提供する価値やそれらを実現するための経営・事業活動の姿)のないままに、次々と目の前に発生してくる問題に対して“受け身”でその対応に終始しているような、いわば“問題対処型経営”の場合である。また、目指すべき戦略がなく、売上や利益などの数値目標のみを目標として持つ場合も同様である。それらの目標数値自体は、単なる活動の結果を示すものに過ぎず、組織の目指すべき方向やどのような活動を行ってその結果を出すのかということを何ら示すものではないからである。このような場合には、自分たちが、どこに向かって仕事をしているのか(方向)と何を目指して仕事をしているのか(目的・目標)ということが欠落しているから、社員たちの活動が個々の判断で行われるため、バラバラで一貫性がなく、時には相互に“矛盾”“衝突”し合うこととなり、組織全体の力が分散して、あるいは、打ち消しあって、総合力が発揮されない。また、社員たちが多くの時間を使い、忙しく働いているにも拘わらず、どこにも向かっていないし、時間が経っても何も達成されない。

 実は、このパターンは、日本企業には意外に多い。物が不足していた高度成長期においては、企業としてやるべきことが比較的明確であったため、特段の中長期の成長戦略を必要としなかったことも一つの原因であると考えられる。そして、さらに遡れば、大東亜戦争の敗北を招いた日本軍の特性や組織的欠陥に行き着く。それは、戸部良一氏や野中郁次郎氏等の日本軍の組織論的研究の成果である著書「失敗の本質」で、日本軍の致命的欠陥の一つとして指摘された“グランドデザインの欠如”とそれによる“個々の作戦の戦略目的の曖昧さ”である。そのため、「特に危機、すなわち不確実性が高く不安定かつ流動的な状況で、有効に機能しえず、さまざまな組織的欠陥を露呈した。」とされる。同書では、それらの日本軍の組織としての特性や欠陥は、現代の企業を始め様々な組織に継承されているとの認識を示しており、日本企業にとって、大変根の深い問題である。

 近時のコーポレートガバナンスコードによる改革は、正にこの日本企業のグランドデザインを持たないという弱点を改めて補強しようとするものと言える。そもそもこの改革は、20年来低成長低収益に悩む日本企業の根本的な原因の一つとして、多くの内部留保を蓄えながら、中長期の成長に向けた戦略を持たず、従って、中長期の成長に向けた投資が行われていないこと、また、そのような成長に向けてリスクを取らない経営者が責任を問われることなく、居座っていることを問題とし、企業は中長期の成長戦略を取締役会で検討の上策定し、それに向けて適切な経営トップを選任指名するとともに経営資源を適切に投資して実行し、その戦略の実行状況を取締役会がモニタリングしていく、そして、それがうまく行っていないのであれば、経営トップを解任し、その中長期の成長に向けた経営戦略の実行により適切な経営トップに変えて行くことを“コーポレートガバナンス”として志向するものである。

 さらに、“問題対処型経営”において、問題への対処の仕方が、“根本原因の追究と対策”を行わないまま、表面的な原因への処置でお茶を濁すような場合には、同じ根本原因が組織の活動の他の局面に現れて、問題が繰り返し発生することにもなる。

 また、個人レベルでは、仕事に“意義”を見出すことができず、ただ何となくやっている場合や仕事は“生活のため”と割り切って、言われたことだけをただやるだけの“サラリーマン根性”に陥っている場合である。このような場合には、往々にして目の前の業務をこなすことで頭が一杯になり、それらをこなしていれば、仕事をしている気になる。仕事という手段が目的化し、本来の目的を忘れてしまうことが多い。

 第二の「間違った方向や目標を目指している場合」というのは、どういう場合か?例えば、私たちは、自分が一番可愛いから、自分の“やりたいこと”(自己満足)を目標としがちである。しかし、それは必ずしも社会や人々の求めるものと合致するわけではない。仮に一時的に成功したとしても、長続きはしない。また、例えば“自己中心的な物の見方考え方”から、目先の“自分の利害”にとらわれて、短期的近視眼的な目標となる場合である。これらの場合、“自分のやりたいこと”や“自分の利害”に関しない情報を“削除”してしまうため、視野狭窄に陥り易く、自分の利害に関しない“社会”や“顧客”の視点が欠落し、間違った方向に向かうこととなる可能性が高い。

 松下幸之助が見てきた多くの中小企業の経営者の失敗も、そのほとんどは、このように“私心”にとらわれた結果、事業や商売を“私の事”と捉えたことによって、重要な顧客の視点が“削除”されてしまったことによるものであった。また、近時の日本をリードしてきた老舗企業東芝の不正会計事件や三菱自動車の燃費不正事件、海外ではドイツの名門フォルクスワーゲン社の排ガス不正事件などの企業不祥事は、経営トップの業績や名誉などの私心への“とらわれ”とその結果としての社員への無理な目標の強要に起因するところが大きいと思われる。

 さらに、例えば、かつて成功したビジネスモデルが経営環境の変化により、“間違った方向”に変わってしまうという場合がある。私たち人間は、情勢に流され易く、うまく行っているときには、往々にして“有頂天”になり“傲慢”になる、あるいは、油断する。すると、経営環境が変化し、従来のやり方がもはや通用しなくなっていても、それが見えない(“削除”)か、見えても、自分の都合のいいように“歪めて”見て“軽視”し、“今までのやり方でいいのだ”と決めつけ(“一般化”)てしまう。その結果、その間違った方向に固執し、変化に適応できなくなって失敗を招くこととなる。かつて、テレビなどで、デジタル化や顧客ニーズの多様化という経営環境の変化を読み違えた家電メーカーが、韓国や中国企業に敗退していったのは、その例と言えよう。

 第三の「目標自体が低い」場合とはどのような場合か?それは、人間の“心の弱さ”から、“苦痛”を避けて、荊の道より安易な道を選ぶ場合である。先に述べた人間の“快楽苦痛の原則”の現れである。例えば、困難な高い目標を避け、今自分たちの技術や能力で“やれる範囲内のこと”でお茶を濁しておこうとする。また、例えば、“失敗”を恐れて、“新しい挑戦”を避け、過去の成功例の焼き直しの保守的で“低い目標”を設定する。また、例えば、“過去現在の延長線上”で考えて低い目標を設定する。

 私たち人間の記憶の圧倒的大部分は過去についてのものであり、人間の脳は、過去の記憶の蓄積を参照しつつ、物事を判断するようにできているから、将来のことを考える際も、自然と過去の延長線上で考えてしまう。過去や現在が原因となって、未来という結果が生じる、と考えるのだ。

 しかし、このような“延長戦上の目標”では、それがなくとも、結果は変わらないのであるから、目標を設定する意義は少ないと言わざるをえない。“目標を設定する”ことの意義は、現在の組織の実力を超える高い目標(努力すれば達成しうるレベル)を設定することで、その目標を達成するために、現在の組織体制、社員の能力等の不足しているところを明らかにし、“自己改革(自ら変わること)”を通じて、その不足する部分を身に着けることでその目標を達成して行くところ、即ち“経営改革”を実行する点にあると言える。

 松下幸之助は、組織を正しい方向に向け、事業目的を全社員が共有するために、「素直な心構えで、社会の要望するものを常に敏感に謙虚に把握し、真に社会から要望されるものを実現するという態度で使命観に基づいて仕事を行えば、事業は必ず成功するのであります。」ということを強調した。

Copyright © 2017 Yuki Miyazaki All rights reserved.

#正しい方向に向け事業目的を共有する

  • Black Facebook Icon
  • Black Twitter Icon
  • Black Pinterest Icon
  • Black Flickr Icon
  • Black Instagram Icon

Copyright © 2016 Yuki Miyazaki  All rights reserved.

This site was designed with the
.com
website builder. Create your website today.
Start Now