• 宮崎 勇気

4.自然の理法に基づく経営 2)“とらわれない素直な心”①


4.自然の理法に基づく経営 2)“とらわれない素直な心”①

 松下幸之助が強調する“素直な心”とは、「一つのことにとらわれない心」であり、「自分の利害や感情、知識、先入観などの私心にとらわれず、物事をありのままに見ようとする心」をいう。(「実践経営哲学」p.110)

“自然の理法”に気づいて、それに従うためには、“とらわれない素直な心”というものが不可欠であるという。“素直な心”を欠いた心の状態とは、まさに“私心にとらわれた”姿である。“私心”にとらわれている限り、意識は、自分の利害や感情、知識、先入観などの“私心”にフォーカスされ、それ以外のものである“自然の理法”は認識の対象から“削除”され、“盲点”となって認識できなくなってしまうからである。その結果、“自然の理法”に反して“無理”をしてしまう、すなわち、“雨が降っているのに傘をささない”ということをやってしまうのである。

 事業経営の現場においても、意外に多い。例えば、自社がそれまで大きな投資をしてきた事業については、その後経営環境が変わって、ライバル製品がもはや圧倒的に優勢となっているなど、客観的にはその事業を継続する合理性が既に失われていても、なかなか撤退するという決断ができない、という、いわゆる“埋没コスト”の問題がその例である。パナソニックは、薄型テレビ事業について、プラズマテレビを選択してこれに大型投資を行ってきたが、その後ライバル製品の液晶テレビに追い込まれ、プラズマ陣営の企業が次々と撤退していった中でも、最後までプラズマテレビ事業の撤退を決断できなかった、あるいは、決断が遅れた。

 この点について、松下幸之助は次のように述べている。曰く、「“我執”ということばがありますが、・・・人間というものは、どうしても知らず識らずのうちに自分中心に、あるいは自分本位に物事を考えがちになって~。」「そのときどきの自分の利益になることのみを追い求め、肯定し、損害になることはすべて忌み嫌い遠ざけ否定する、というような姿であるともいえる」「そういう、自分のことしか考えない姿というものは、往々にして他の人々の利害を無視したり、軽視したりすることにも結びつきかねません。」(「素直な心になるために」pp.125-126)「私心にとらわれて商売をしたならば、他に損害を与えても自分だけ儲けたらいいなどといった姿に陥り、世間に大きな迷惑を与えかねません。そしてそれはやがて自分自身の信用を傷つけ、みずから墓穴を掘ることにもなりかねないでしょう。」(「素直な心になるために」p.31)。

 “自然”には、“私心”“とらわれ”もなく、いわば“素直な心”によって営まれている。曰く、「自然の営みというものには、私心もなければ、とらわれもないと思います。いってみれば、文字通り素直に物事が運び、素直な形でいっさいが推移していると思うのです。」私たちも、“自然”の中に自分の身をおけば、都会の雑踏や日常の悩みなどを忘れて、自ずから“自然”に溶け込み、一体となって“素直な心”になって行く。それ故、松下幸之助は、“素直な心”自体も、“自然の理法”の一部と位置付ける。

 そして、松下幸之助は、“素直な心”になることによって、事業に失敗した経営者の多くが陥った“私心へのとらわれ”から解放され、“自然”と一体となって、“自然の理法”に気づくことができるようになるという。曰く、「考えてみればこの宇宙に存在する一切のものが、自然の理法に従って、おのれにとらわれず、それぞれの行動をしておるんや。人間も宇宙自然の存在ならば、同じように自然の理法に従って自分にとらわれず考え行動せんといかん。ならば、わしもこだわらず、とらわれず、素直な心になって考えんといかん、行動せんといかん。そう感じて、わしは心がけてきたんや。」(「経営秘伝」江口克彦著p.103)

“素直な心”を持つことは、“私心”“とらわれ”もない“自然”と一体となることで、それまでとらわれて、自身の“物の見方”や“物の考え方”を歪めていた“私心”から自分の心を解放し、「色やゆがみのないレンズでものを見るようなもので、白いものは白く、まっすぐなものはまっすぐに、あるがままを見ることができる~。だから、真実の姿、物事の実相を知ることができる。」(「実践経営哲学」p.111)のである。

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#とらわれない素直な心

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