• 宮崎 勇気

4.自然の理法 1)生成発展の原理 ③


4.自然の理法に基づく経営 

1)生成発展の原理 ③

 それでは、松下幸之助のいう“成功の秘訣”たる“自然の理法”に沿って「為すべきことを為す」とは何をするというのであろうか?

 この点、一部には「万人の常識、平凡なことを当たり前にやることに尽きる」との解釈がある。(PHP研究所佐藤悌二郎氏)しかし、この解釈は誤りである。松下幸之助は、「万人の常識、平凡なことを当たり前にやること」だけで経営が成功するなどというような愚かなことを述べてはいない。

 松下幸之助が述べているのは、「天地自然の理にかなった仕事の仕方をすればよい」ということである。そして、“天地自然の理(自然の理法)”の中心は、「宇宙も社会も限りなく生成発展して行くものである」という“生成発展の原理”であり、その実現の担い手は“人間”であると捉えるから、“社会を生成発展させること”は、“人間の使命”と考える。そして、企業は、“人間がその使命を果たすための手段”であると捉え、「その中で(生成発展という理法が働いている社会の中で)われわれは、事業経営を行っている」と考えると、“企業の使命”は、“社会の発展の原動力となること”である。とすれば、松下幸之助の言う“為すべきこと”とは、「人間の本質なり、自然の摂理(“生成発展の原理”はその中核となる)に照らして、何が正しいかということに立脚した」(「実践経営哲学」pp.13-14)“為すべきこと”、つまり“社会の発展のために社会が自社に求めること、期待すること”であって、通常よりも高い目標となる。そのような厳しい目標を自ら設定して、それを徹底してやり抜くことが“成功の秘訣”だと言っているのである。松下幸之助の次の言葉はそのような意味である。「何が正しいかを考え、信念を持って為すべきを為す。~それをするかしないかが、成否の分かれ道である。」“万人の常識”“平凡なこと”だけをやって、社会が発展することはないし、事業の成功にもつながらない。

 人間は、その“心の弱さ”から、自分の現状の力でできる範囲内で目標を設定してお茶を濁すということをやりがちである。現在でも多くの企業では、自社の技術力や経営資源など現状の組織の能力の延長線上に設定“甘い”目標を設定することがある。しかし、それでは、社会の発展にまではつながらない場合が多いし、従って事業の大きな発展も生れない。それ故、この“生成発展の原理”に立ち、“社会の発展”という“企業の使命”を認識することによって、そのような“人間の心の弱さ”を克服し、社会の求める高い目標を設定することが可能となる。

 この点は、松下幸之助の次の言葉からもわかる。曰く、「経営というのは、天地自然の理にしたがい、世間大衆の声を聞き、社内の衆知を集めて、なすべきことを行っていけば、必ず成功するものである。」(「実践経営哲学」p.111)“なすべきこと”を決める前に、「世間大衆の声を聞くこと」が入っているのは、自社の都合で勝手に決めるのではなく、“社会が自社に期待すること”をよく聞いた上で“なすべきこと”を決めよという意味である。

 また、そうした高い目標を実現して行く過程においても、様々な障害や困難に遭遇したときに、それを克服することができるかどうかという問題が生じる。このような困難や障害に遭遇したときには、意気消沈したり、否定的な思考に陥って打開策を考えることができなくって、思考停止の状態となったりすることが多い。実際には、打開策がありうるのに、「もうだめだ」と諦めてしまい、それに“とらわれ”ることで、それ以外のことが“削除”されて“盲点”となり、見えなくなってしまうのである。

 その際にも、“生成発展の原理”に立ち、「ことごとく生成発展と考えること」から、「必ず成功すると考えること」という概念が生まれてくる。将来必ず生成発展するということ(“生成発展の原理”)が決まっているのであれば、それに向けて“社会の発展の原動力となる”べく自社が設定した“正しい目標”「必ず成功すると考えること」が可能となる。すなわち、“将来の成功”が固定されることによって、将来の“成功の確信”を持ちつつ、そこから遡って現在を見て、そこへ辿り着くために何をすべきか、自社をどのように改革すべきかということについてあらゆる可能性を考えることができるようになる。曰く、「経営というものはまことにむずかしい。いろいろな問題がつぎからつぎへと起こってきて・・・考えるべきこと、なすべきことがいろいろあり・・・しかし、また、考えようによっては、経営はきわめてやさしいともいえる。というのは、それは本来成功するようにできていると考えられるからである。」

 ここで紹介した“限りない生成発展”“必ず成功すると考えること”は、いわゆる科学的に証明されたというレベルでの客観的な事実とは必ずしも言えない。(その点から“宗教的だ”等の批判もある。しかし、先に述べた通り過去の歴史の研究から一応間違いではないと言える。)その意味において、松下幸之助の“自然の理法”の中核部分である“生成発展の原理”という“心の持ち方”を“選択する”ことで得られる“実際上の効果”を狙った、極めて実際的、実践的なアプローチであり、人間の認知のプロセスにおける“歪曲”と“一般化”のメカニズムを逆活用するものだと言えよう。目の前の現象を“肯定的”“積極的”なものにある意味“歪めて”、それを常にそういうものだと“一般化”することで、“人間(特に経営者)の心の弱さ”を克服させるのである。

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(お知らせ)関連の下記ブログも併せてご覧いただければ幸いです。現パナソニック株式会社の創業者である“松下幸之       助の経営哲学”の現代の諸問題への応用として、最近の話題等をテーマにしたブログです。最新の記事は、「PHP研究所佐藤悌二郎氏の松下幸之助論に異論あり⑦3.自然の理法に従うこと:「ことごとく生成発展と考えるこ  と」」です。

#生成発展の原理

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