• 宮崎 勇気

4.自然の理法 1)生成発展の原理 ①


4.自然の理法に基づく経営 

1)生成発展の原理 ①

 そして、松下幸之助が“人間の本質”とともにその経営理念の基礎とする“自然の理法”の中核を成すものは、“生成発展の原理”である。

 松下幸之助は言う。「この大自然、大宇宙は無限の過去から無限の未来にわたって絶えざる生成発展を続けているのであり、その中にあって、人間社会、人間の共同生活も物心両面にわたって限りなく発展していくものだと思うのである。」(「実践経営哲学」pp.15-16)

 宇宙や自然、社会について、過去の歴史を研究した上で、一つの結論として、宇宙や自然、社会は、その途中には“衰退”や“消滅”があったとしても、それらをも含めて“全体として見れば”、常に“万物は日に新たに、限りなく生成発展を続けてきた”と言えるとし、“今後も限りなく生成発展を続けて行くであろう”とする。その上で、この“常に限りなく生成発展している”ということを自身の“強固な信念”として内面化し、“一般化”するのである。

 もちろん、実際の現実世界には、“生成発展”を示す事象だけでなく、“衰退消滅”を示す事象の双方が常にある。世の中には常に“陰”と“陽”とが存在するのである。いずれか一方だけになるということは決してない。しかし、それらのいずれに自分の意識をフォーカスするのかという“心の持ち方”がここでの問題である。

 松下幸之助は、過去の歴史から宇宙や自然、社会がその途中段階の衰退や消滅をも含めて“全体として見れば、生成発展してきたし、今後も生成発展し続けるであろう”と結論しても客観的に間違いではない(科学的真実として証明しうるレベルではないとしても)と確認した上で、両者の物の見方を採ったときの“実際の効果”を比較検討し、そこから遡って自分自身に役立つ方として“陽”に焦点を当てる“心の持ち方”、言い換えれば、“より明るい物の見方”を選んだのである。

 “衰退消滅”に焦点を当てて生きることは、“焦点化”により“衰退消滅”を示す事象ばかりが目に入り、益々意気消沈し、“生成発展”に向けた可能性が実際には存在していても、それを見出し、追求することを自ら諦めてしまい、可能性を潰すこととなり、自分にとって役に立たず、むしろマイナスの効果しか生まないことが明らかだからである。

 これに対して、“生成発展”を信念として持ち、それに焦点を当てて生きることは、“将来の生成発展”を確信しているから、成功への不安や疑いに悩むこともなく、また、自ら諦めることもなく、それに向けてあらゆる可能性を見出し追求しようとするし、また、“焦点化”によって“生成発展”に向けたヒントやチャンスなどのプラスの情報が次々と目に入ってくるため、具体的な対策も後から浮かんでくるからである。

 このような考え方は、松下幸之助自身の体験から来ているところも大きいと思われる。松下幸之助に与えられた人生の境遇は、過酷を極めたものであった。曰く、「僕は小学校も卒業してないし、体は半病人で弱い。20歳のときに肺尖カタル、肺結核の第一期やな、それになって死にそこのうたからね。~(医者からは、郷里に帰って養生するように言われたが)僕には帰る家がない、両親も亡くなっていたし、親戚もない、~また、金もない。医者代も出せない。僕の兄も姉も大部分が体が弱うて、早く死んでしもうておるのやからね。学問的にも肉体的にもドン底やし、資産はもちろんそうやし、そういう最ドン底から、今を得たわけやな。」

 このような過酷な境遇を嘆いても、自分がくさっても、そこからは何も生まれないことに気づいた松下幸之助は、持って生まれた楽観的な性格もあって、こうして与えられた境遇の中でもがき、少しでも可能性を見出し追求してきた。結果として見れば、これらの過酷な境遇を最大限に活かしたのである。曰く、「今思えばこういうことはいえるのかもしれません。それは、運命というものを自分なりに、あるいは、自然のうちに前向きに生かそうとしてきたということです。「家が貧しかった」ために、丁稚奉公に出されたけれど、そのおかげで幼いうちから“商人としての躾”を受け、“世の辛酸”を多少なりとも味わうことができた。「生来体が弱かった」ために、人に頼んで仕事をしてもらうことを覚えた。「学歴がなかった」ので、皆自分より偉く見え、常に人に教えを乞うことができた。だから、多くの人の知恵を集めることもできたのだと思う。」これは、人生の過酷な体験を通じて、松下幸之助自身がいわば“生き残るために”身を以て学び取った“人生の知恵”であった。曰く、「自分に与えられた運命をいわば積極的に受け止め、それを知らず識らず前向きに生かしてきたからこそ、そこに一つの道が開けてきたとも考えられます。」

 先に述べた歴史の研究成果とこのようにして自ら体得した“人生の知恵”とが相俟って、「宇宙、社会は、限りなく生成発展をして行くものだ」ということが松下幸之助の“強固な信念”を形成したものと考えられる。こうして、松下幸之助は、“事業の経営”においてだけでなく、自身の“人生”を通じて“生成発展”というフレームを通してあらゆる物事を見たのである。曰く、「すべての事業を“生成発展”という心の窓を通してながめ、かつ、考えることは、私の人生観の中軸であり、我が社経営の根本理念の一つである。」(社史資料巻頭言より)

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(お知らせ)関連の下記ブログも併せてご覧いただければ幸いです。現パナソニック株式会社の創業者である“松下幸之       助の経営哲学”の現代の諸問題への応用として、最近の話題等をテーマにしたブログです。最新の記事は、

「PHP研究所佐藤悌二郎氏の松下幸之助論に異論あり⑤自然の理法に従うこと:「雨が降れば傘をさす」①      です。

#生成発展の原理

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