• 宮崎 勇気

4.5)“日に新た”(4)“日に新た”の実践を妨げるもの③


4.自然の理法に従う

 5)“日に新た”

 (4)“日に新た”の実践を妨げるもの ③

 この点、ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授は、“イノベーションのジレンマ”という概念によって、特に成功した“大企業”の場合にこのような“日に新た”の実践となる“経営革新”が起こりにくいことを説明する。「画期的な“破壊的イノベーション”は、遠く離れたところから密かに始まる」というのだ。

 すなわち、優良企業は、優れた特色を持つ商品で成功すると、顧客のニーズに応えて“従来製品の改良”を進めていく(“持続的イノベーション”)一方、全く新しい価値を生み出す“破壊的イノベーション”を軽視し、取り組もうとしなくなる。優れた特色を持つ商品を持つがゆえに、その特色を“改良すること”のみにとらわれ、顧客の求めるそれ以外の需要が“削除”され、“盲点”となって見えなくなるからだ。

 また、そうした大企業は、“真に顧客が求めていること”よりも“自社の成功した商品”にとらわれて、それを過大評価し、“自社の成功した商品”をさらに“改良”して行けば、顧客は必ずついてくると何ら検証することもなく、自社の都合のいいように勝手に歪めて解釈し(“歪曲”)、決めつける(“一般化”)のである。他方、イノベーションの初期では、その新たな市場は、市場規模が小さく、また、成功の保証もなく不確実性が高く、参入の価値がないように見えることから、“破壊的イノベーション”の必要性を過少評価して軽視する。しかも、既に成功している自社商品の価値を破壊する(カニバリズム:共食い)恐れがあることも踏み出さない理由となる。さらに、“破壊的イノベーション”は、居心地のいい“現状”から外へ出て、ゼロから始める必要があるため、失敗への極度の恐れが、“抵抗”を生み出すのである。過去の成功が大きければ大きいほど、その改良が安全策に見え、ゼロからの挑戦が失敗することへの恐れは大きくなる。このことは、企業の現場でも実際に起こっている。

 この点、松下幸之助は、次のように言う。「失敗することを恐れるよりも、真剣でないことを恐れたい。」“真に顧客が求めていること”を“とらわれのない素直な心”で“真剣に”追求して行けば、“為すべきこと”は必ず見えてくるはずだというのである。「うまくいかないのは、為すべきことを考えていないか、考えていても、やっていないからだ。」先に述べた大企業の状態は、“成功した自社商品”にとらわれる余り、本来自社の“為すべきこと”が見えていないのである。

 そうして、“為すべきこと”すなわち“破壊的イノベーション”に踏み出せないまま“固定渋滞”しているということは、いわば“何もしないというリスク”を抱えることとなり、その結果、経営環境の変化に適応する機会を失って、経営破綻を招くこととなるのである。この点経営学者のピーター・ドラッカーは、「事業においては、リスクを最小にすべく努めなければならない。だが、リスクを避けることに囚われるならば、結果は最大にしてかつ最も不合理なリスク、即ち“無為(何もしない)のリスク”を負う。」と述べている。 つまり、自社が何もしないでいるうちに、他社から“破壊的イノベーション”を実行した画期的な新商品が登場し、自社の改良品に飽きた顧客の目がその他社商品に向くようになり、やがて自社商品は市場から駆逐されてしまう。

 韓国や中国のメーカーに敗退した日本の家電メーカーは長らくこと“固定渋滞”に陥っていたところに、“羽根のない扇風機”や“ロボット掃除機”などのエッジの効いた新しい商品が大手家電メーカーからではなく、家電ベンチャー企業から打ち出されてきたことは、この“イノベーションのジレンマ”を象徴する出来事であったと言えよう。

 先に述べたように、一度成功した経営者が経営環境の変化に直面する場合と比べて、経営環境がまさに変化しつつある最中に経営者が交代する場合には、新しい経営者は、前経営者の成功した商品やビジネスモデル等にとらわれることなく、“新鮮な目”で目の前の変化する経営環境を冷静に捉えて、“経営の危機”を感じ、経営改革を決断するということが、比較的しやすいと言える。次にご紹介する龍角散の経営改革は、そのような事例である。

 「ゴホンといえば龍角散」でお馴染みの龍角散は、1871年創業の百年以上の歴史を持つ老舗企業であるが、第8代目の現在の藤井隆太社長が就任した頃(1995年)には、負債が40億円と年間売上とほぼ同額に達する“経営危機”に直面していた。藤井社長は、危機感の薄い社内の猛反対を押し切って、経営改革を断行した。発想を転換し、龍角散(パウダー)という製品自体からではなく、“龍角散”に社会は何を求めているのかという観点から“市場”を考え、“のどを守るため”という一段高い所から見た製品の“役割”に着目した結果、それまでの風邪薬の代替として使ってきた「40代後半から50代以降のおユーザー層」だけではなく、より広くあらゆる世代に使ってもらえるはずだ、という新しい前提に立った。その結果、様々な具体的ニーズが見えてきて、水なしで飲める新製品「龍角散ダイレクト」を発売し、歌手ポール・ポッツを起用したCMで一気に10代後半の男女までユーザー層が拡大し、続く機能訴求のCMでは品切れを起こすほどの人気を博することとなったのである。

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