• 宮崎 勇気

6.補論1)失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント③ 2)“先憂後楽”の発想②


6.補論1)失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント③

2)“先憂後楽”の発想②

 また、『事後対応のアプローチ』を採ろうとする経営者にはさらに問題があります。それは、そのような経営者は、多くの場合、自己防衛本能から、自分を守ろうとして、『自分は悪くない』ことを確保するため、経営の失敗という結果を“他人”や“環境”のせいにしがちなのです。その結果、自分はむしろ“犠牲者”“被害者”だとして、いわゆる“被害者意識”が生じてきます。そうなると、他人や環境の原因に焦点を当てて、『自分は悪くなかった』ことの“証拠”を探すようになり、その反面、実際には自分や自社の中にあった失敗の原因に関する情報は“削除”されて、見えなくなってしまいます。その結果、それらに気がつかず、それらを改めるということもしませんので、そのような原因は残ったまま“放置”されることとなり、また、同じ失敗を繰り返すことになります。つまり、“リスクに弱い企業体質”がいつまでも変わらないということが最大の問題なのです。

 これに対して、右の道、即ち自らの事業の将来とそれに向けたプロセスは、自らコントロールするのだと考え「自ら主体的に事前の対応をしていくこと」を選択するというのが、松下幸之助創業者の選んだ道でした。松下幸之助は、中国の故事からヒントを得て「指導者にいわゆる先憂後楽の心がなくてはならない。」と強調しました。松下幸之助は、「先憂とは、・・・広くとれば、難局に直面せずにすむようにつねに人びとに先んじてものを考え、いろいろ発想し、それに基づいて適切な手を打っていくということ」だとし、「難局に直面してこれを打開していくというところに、指導者の手腕が求められる場合もある。そういうことはもちろんきわめて大切であるが、より大事なことはできるだけそうした難局に直面せずにすむように、あらかじめいろいろと手を打っておくことであろう。」と述べて、「そのような責任自覚のない人は指導者として不適格だ」とまで断言するのです。(「指導者の条件」より)

 このように「事前の対応」を強調しますと、「そうは言っても、あれもこれも対策することはできない」という声が聞こえてきそうです。もちろん、リスク対策には、人物金の経営資源を投入する必要があり、経営資源は“有限”ですから、多様化した現代のすべてのリスクに対策を打とうとすると、事業経営自体が成り立たないということにもなりかねません。しかし、それ故にこそ、“リスクの絞り込み”、即ち『その会社として本当に重要なリスク』を特定し、優先順位を明確にして、そこに集中的に経営資源を投入し、適切なリスク対策を採ることが大変重要となるのです。

 何がその会社にとって重要なリスクとなるかは、その会社の事業そのものの性質や事業活動(オペレーション)の特徴やそれらを取り巻く経営環境と経営理念や企業文化・風土、社員のモラル・意欲などの会社の内部環境に応じて決まってきます。

 そして、何を重要リスクと捉え、そのリスク要因を分析してその根本原因を突き止め、そこに適切な対策を事前に打つ、そして、モニタリングすることにより、PDCAを回し継続的に改善をしていくというリスクマネジメント能力の差がこの21世紀の企業間競争の重要な部分を左右することとなってくると考えています。企業は、表面的には、技術や製品という「攻め」の部分で競争しているわけですが、目に見えにくい水面下では、リスクマネジメントという「守り」の部分でも競争をしていると言えます。進化論を著したチャールズ・ダーウィンの述べた言葉「強い者、大きな者が生き残るのではない。変化に対応した者だけが生き残るのだ。」は、21世紀の経営環境の大きな変化の中から出てくるリスクに対応できた企業だけが生き残るのだと読み替えることができるのではないでしょうか。

 また、リスクマネジメントには、上に述べた「守りのリスクマネジメント」に加えて、「攻めのリスクマネジメント」とも言える機能があります。事業活動においては、中長期経営戦略を立てて、その目標を実現するために様々な施策を考えて実行していくわけですが、それらの施策を実行していく際に、『その施策の実行を阻害する要因』となるリスクや『その施策の実行によって生じる副作用や弊害』たるリスクというものが潜んでいることがあります。ところが、多くの場合それらのリスクというものをそもそも考えないことが多いのです。あるいは、気づいても、皆の“前向きな姿勢”に水をさすように感じられて、指摘することなく、それらを無視・軽視してしまうのです。前者の例は、経営戦略は『利益重視』に変わっているのに、営業社員の評価基準は『売上至上主義』のままであるという場合です。また、後者の例は、『コスト削減』の戦略を一律に実行することにより、必要な安全対策(JR西日本の列車事故における自動停止装置ATSの設置延期)が実施されないとか、仕入先の集中により地震発生時に被害を受けた仕入先からの部材の供給が止まってしまうという場合です。

 これらのリスクにも対処できる『リスクマネジメント能力』の高い会社は、他社の真似できない高い経営目標を確実に実現し、しかも、副作用を生まない結果を出すことのできる強い会社であると言えましょう。それ故、このようなリスクマネジメント能力は“裏の競争力”とも言われます。その模範的な例は、トヨタ自動車です。同社では、普通の会社の倍くらいの時間をかけて、事前の検討を徹底的に行い、リスクを洗い出して対策を検討し、他社の半分くらいの時間で一気に実行してしまうのです。

 左右2つの道のどちらを選ぶかは、皆さん次第です。選ぶ自由が与えられていると言えます。但し、どちらを選んだかによって、その結果は決定的に異なってきます。

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(お知らせ)関連のブログも併せてご覧いただければ幸いです。今年100周年を迎える現パナソニック株式会社の創業者       である“松下幸之助の経営哲学”の現代の諸問題への応用として、最近の話題等をテーマにしたブログです。

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#失敗しない経営

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