• 宮崎 勇気

6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント㉗ 10)“身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ” ①


6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント㉗

10)“身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ” ①

 これまで述べてきたように、松下幸之助は、会社を潰すことで従業員を路頭に迷わせることだけは何としても避けなければならないと考え、倒産につながるリスクとして、“私心にとらわれること”を避けるべく、あらゆる手を打っている。また、『失敗の原因を無くして行く』ことが大切で、そうして事前に用意周到な計画を立てて行けば、少なくとも“大きな失敗”はしなくなるだろうと言う。その意味で、『失敗しない経営』を確実にするために、現代にいう“リスク管理”の仕組みと考え方を徹底していると言えよう。

 しかしながら、経営にはその究極の局面においては『リスクを取る』ことが必要な場合がある。経営環境が大きく変化し、今後のことが不確実な中で方向を決める経営判断をしなければならないような場面である。特に、その前に事業に成功している場合には、『今のままでいいではないか』という思いにとらわれ易い。そのような場合に経営環境の変化への対応を恐れて、『現状維持』し、『何もしないこと』は、それ自体が“リスク”となる場合がある。“何もしないリスク”である。つまり、経営環境の変化に適応できた企業だけが生き残ることができたという場合である。

 チャールズ・ダーウインはその『進化論』の中で、「強い者が生き残るのではない。変化に適応できた者だけが生き残るのだ」と述べた。

 松下幸之助はこの点次の様に述べている。「商売には、一面危険が伴う。それが命取りになって倒産してしまうこともあるから、普通は危険を避けて歩むことが大切だが、時と場合によっては避けるべきでない危険というものもあるのではなかろうか。」(「決断の経営」p.30)

 ただ、ここで問題となるのは、『今目の前にある危険(リスク)が避けるべきでないものかどうか』をどのようにして見極めるのかということである。松下幸之助は、自転車用電池ランプの事例を挙げている。大正12年3月、自社で開発した自転車用電池ランプの製造販売を開始した。当時の自転車用のランプには3つの種類があったが、いずれもそれぞれ問題があった。まずローソクのランプは風が吹けば消えるので、その度にマッチで点火することを繰り返さなければならず、不便であった。また、アセチレンガスのものは、取り扱いに手数がかかり、高価でもあった。そして、電池のランプは、電池の寿命からわずか2~3時間でつかなくなってしまう。

 そこで、検討の結果、『電池ランプの改良』というのが、最も電気屋の仕事としてふさわしいと考えて、およそ6か月に亘って試作を重ね、ようやく砲弾型の電池ランプを開発したのである。松下幸之助自身、『このランプなら大丈夫だ』と思った自信作であった。この点、松下幸之助は次の様にその理由を述べている。「というのは、当時の電池ランプの寿命が二、三時間であったのに比べて、この砲弾型ランプは実に三十ないし五十時間も点灯が続いたのである。ケタ違いの寿命である。まさに画期的新製品が誕生したわけである。しかも、値段の点も、ローソクのランプよりずっと安くつく計算である。これだけ優秀なランプが売れないはずはない。」

 ところが、販売を開始してまもなく“大きなカベ”につきあたった。それは、世間一般の人々の『従来の電池ランプ』に対する偏見であった。「すぐ寿命が切れるあんなランプは使えない」というわけである。だから、問屋に持って行って、従来のものとはちがうその優秀性をいくら説明しても、ケンもホロロで、取り扱ってもらえない。「だめだめ、松下さん、こんな電池ランプをつくっても、売れませんよ。持って帰ってください。」というわけである。

 一方、工場では次から次へと製造しているから、在庫も増え、事は急を要する。このままでは、多くの在庫を抱えて“倒産”してしまう恐れすらあった。

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