• 宮崎 勇気

6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント㉖ 9)企業は社会の公器


6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント㉖

9)企業は社会の公器

 先に述べた通り、経営者が自分の利害や感情などの“私心”にとらわれてしまうことが、物事の実相、真の姿を見えなくし、経営判断を誤らせて、会社を潰すことにも直結することから、経営者にとって最大の敵(リスク)は、自分自身の心の中にある“私の心”なのである。それ故、松下幸之助は、『経営の心得』の中で、次の様に述べて経営判断において“私心”をはさむことを厳に戒めている。「経営といい、商売といい、これ皆公事にして、私事にあらず、商売大切にその道を尽すは君国に忠誠をいたすと同じきなり、従って商売は常に公の心をもって行ない、いささかも私心をはさまざるようこころがくべし」

 そして、そのことを徹底し、商売に“私心”をはさむことのないようにするための仕掛けとして、松下幸之助は、『企業は社会の公器』であるとの考え方を打ち出した。現在では、いわゆる“企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility略してCSR)”との関係でそのように言われることも多いが、昭和の初期の頃にこのような企業の捉え方をしたことは当時極めて斬新な考え方であった。

 もっとも、『企業は社会の公器』という概念を立てた本来の目的は、企業としての目指すべき方向として『綱領』に定めた「産業人たるの本分に徹し 社会生活の改善と向上を図り 世界文化の進展に寄与せんことを期す」という社会の為に仕事をするいわば“公事”の実現を目指すのが自社を含む企業の使命であり、従って、企業は『社会の公器』だとする考え方から来ている。しかも、その方向こそが発展につながる正しい方向なのだとして、次の様に述べている。「企業は、社会とともにある限り永遠に発展するし、そうでなくなったら、やがて衰退する。これが発展と衰退を分ける“真理”である。」(1983年2月1日松下政経塾塾報より)

 すなわち、この『企業は社会の公器』という概念には、そのような『公の心で公事を行う』という“正しい方向”に経営者と従業員の心を向けるというのが、その本来の狙いであるが、それと同時に、その裏腹である『私心にとらわれる』という最も危険な状態から経営者と従業員の心を遠ざけるという、いわばリスクを予防するという機能があったのである。

 松下幸之助は言う。「企業の目的は、・・・その事業を通じて共同生活の向上をはかることであ(る。)そういう意味で、事業経営は、本質的には私の事ではなく、公事であり、企業は社会の公器なのである。だから、たとえ個人の企業であろうと、私の立場で考えるのでなく、常に共同生活にプラスになるかマイナスになるかという観点からものを考え、判断しなければならないと思うのである。」(「松下幸之助一日一話」p.25)

 また、『企業は社会の公器』という考え方は、単に建前とするとか、知識としてそう理解するというだけではなく、本当に心からそうだと考えること、つまり、自分自身の信念とすることによって、副次的な効果が生まれる。この点、松下幸之助は、次の様に述べている。「人間誰しも自分が大事であり、可愛いものである。そのことはごく自然な感情ではあるが、しかしそうした自分の利害とか感情にとらわれてしまうと、判断を誤ることもあるし、また力強い信念も湧いてこない。そうした自分というものを捨て去って、何が正しいかを考え、なすべきことをなしていくところに、力強い信念なり勇気が湧き起こってくると言えよう。だから、私心をすてるということは、だれにとっても必要ではあるが、特に指導者にはそれが求められる。」(「指導者の条件」p.77)

『社会の発展』のために『何が正しいかを考え、なすべきことをなしていく』ことが、揺るぎなき力と勇気を与えてくれるというのである。

 さらに、この『企業は社会の公器』という考え方は、“社会に対する責任感”という具体的な感覚をも生み出すのである。人・モノ・カネという経営資源を社会から預かって事業をさせていただいていることから、社会に対して具体的に貢献していかなければならないという強い“社会に対する責任感”が求められるのだと松下幸之助は言う。「共同生活の向上に貢献するという使命をもった、社会の公器として事業経営を行っている企業が、その活動から何等の成果も生み出さないということは許されない。」(「実践経営哲学」p.43)「仮にも自らの怠りによって、人びとの求めに応じた良品が生み出せないとか、十分なコストの合理化ができないとか、必要なだけの数量を供給できない、といったことは許されないし、あってはならないと思うのです。それほど厳しい責任が課せられていることを・・・強く自覚しなくてはならないと思います。」(「企業の社会的責任とは何か?」p.25)

 そして、この『企業は社会の公器』という信念が生み出す“社会に対する強い責任感”こそが、何か重要な経営判断をするに際して、仮に自分の利害や感情など“私の心”が頭をもたげてきても(それ自体は人間である以上止められない)、“私心へのとらわれ”から一瞬にして抜け出させ、“社会の公器としての自覚と判断基準”に立ち返らせる、いわば切り換えスイッチとして機能するのである。

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