• 宮崎 勇気

6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント㉕ 8)衆知を集めること⑤:下意上達②


6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント㉕

8)衆知を集めること⑤:下意上達②

 松下幸之助は、この点に関して『ある問屋さんの立腹』として、次のような話を紹介している。昔、松下電器が四、五百人ぐらいの町工場に成長した頃、一人の店員がお得意先回りで、ある問屋さんへ行ったところ、そこのご主人がたいへん立腹して次の様に言った。「おまえのところの品物を小売屋さんに売ったら、評判が悪いといって返されてきた。せっかく売ったのに返されて、わしは憤慨しているのだ。けしからん。だいたい松下電器が電器屋をするなどとは生意気だ。電器屋というのはむずかしい技術がいるものなのだ。こんな品物をつくるくらいなら、焼いも屋でもやっておけ、それが松下には手ごろな仕事だ。帰ったらオヤジにそう言っておけ。」店員はそのとおり松下幸之助に報告したのである。

 それを聞いた松下幸之助は、数日後その問屋を訪問し、「このあいだはたいへんなご立腹で、申しわけありませんでした。店員に聞いたのですが・・・ほんとうにすみませんでした。」と謝ったのです。すると、問屋さんのご主人は、「いや、おそれいった。腹立ちまぎれに強く言ったのだが、お宅の店員がまさか焼いも屋になれということをそのままあなたに伝えるとは夢にも思わなかった。失礼した。腹を立てないでくれ。」と言われ、後は笑い話になったという。

 これが、松下幸之助の考える『下意上達の姿』だとして、次の様に言う。「店員が言われたとおり私に伝えたのは、日ごろ常に、私がたとえいやなことでも話してくれよと言いきかせていたからです。そうでなかったら、どうなっていたでしょう。おそらく店員は、そのようなことをおやっさんに報告したらいやな顔されるだろう。だから怒っておられたという程度にしておこうということになるでしょう。あるいはそれを番頭に相談する。すると番頭が、焼いも屋のことだけは言わないでおいたほうがいいという場合もあるのではないでしょうか。それでは主人公である私には、実際のことが分からなくなってしまいます。」(「商売心得帖」pp.95-96)

 最後に、報告制度があり、その制度に従って、下の者が上位者に報告を上げ、上位者がさらに上位者を通じて社長に上げたときに、社長がどのような態度を取るかということが極めて大切である。社長自身が、“嫌な報告”をどのように捉えて、どのように反応するかということがここでの問題である。

 松下幸之助は言う。「首脳者、経営者たる人がいやなことを聞いて、いやな顔をしたり、機嫌をわるくしたりするようでは、いやなことは伝わらないようになります。いやなこと、いやな話ほどみずから反省すべき点、改善すべきところを含んでいることに思いをいたすべきだと思います。」「首脳者、経営者の立場にたつ人は、いやなことは一つの転機である、物を言うチャンスを与えられたのだと考えて、喜ぶというような心持ちをつねに養っておくことが大切だと思うのです。」(「商売心得帖」p.96)

 その上で、社長は自らの役割を『心配引き受け係』であると認識しなければならないと松下幸之助は言う。「そういう心配(筆者注:仕事の上での心配ごと)はそれぞれの部署の責任者が引き受けるという面ももちろんあるが、けれども最終の引き受け所は社長である自分でなくてはならない」(「人事万華鏡」)

 しかも、『社長は心配引き受け所』だということを自分で考えるだけでなく、機会あるごとに社員の人にも「遠慮なく心配を持ってこい。というより、持ってこなくてはいかん。」と言いきかせておくことが大切だと言う。松下幸之助は、次の様に従業員に話していた。「みなさんは仕事の上での心配ごとがあったら、遠慮なくぼくにいってきてほしい。そもそも社長というのは心配する役なんだ。心配することが社長の仕事だ。」「だから小さい心配は課長の人がやる。それよりちょっと大きい心配は部長がする。けれども『これは大変だ』というような大きな心配は社長であるぼくが心配しなくてはいかん。そのために社長は一番高い給料をもらっているんだ。まあいわば心配料みたいなもんだ。」(「人事万華鏡」)

 また、それと同時に、上位者や社長に物を言いやすい雰囲気を社内につくっておくことが大切であると、松下幸之助は言う。「だから会社でも商店でも、外部に対して手を打たなければならないような情報がすぐに首脳者に伝わるような雰囲気を、絶えず内部につくっておくことが、事業なり商売を進めていく上肝要だと思うのです。」(「商売心得帖」p.96)

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(お知らせ)関連のブログも併せてご覧いただければ幸いです。100周年を迎えた現パナソニック株式会社の創業者であ       る“松下幸之助の経営哲学”の現代の諸問題への応用として、最近の話題等をテーマにしたブログです。最新       の記事は、 「私たちは“仮想現実の世界”に生きている!9)現代における仮想の世界⑪:規制緩和の実態①」です。

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