- 宮崎 勇気
6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント㉓ 8)衆知を集めること③:上意下達、下意上達②
6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント㉓
8)衆知を集めること③:上意下達、下意上達②
他方、組織の末端の従業員の様々な気づきが組織の上位者、最終的には社長に迅速かつ円滑に伝わるかどうか(『下意が上達しているかどうか』)ということも、次の二つの側面から重要である。
第一に、戦略や施策の実行上、顧客と直接接している組織の末端の従業員が、例えば顧客の反応から、それらの戦略や施策が必ずしも適切ではないのではないかという疑問を持つことがある。そのような情報なり疑問なりが、組織の上位者に伝えられているか、上位者はそれらの情報に真摯に向き合っているかということが重要である。
というのも、組織の経営戦略や施策にも一定の前提があるが、その前提たる事実の理解が誤っていたことが原因で、その戦略や施策に“誤り”があった場合がありうる。あるいは、その前提たる事実が変化していたことが原因で、その戦略や施策がその変化した経営環境に既にそぐわなくなっている場合もある。これらは、いわば『戦略や施策の内容上のリスク』と言えよう。
それらの場合には、そのような違和感に気づいた末端の従業員の情報や疑問がいち早く上位者に伝えられて、その戦略や施策の見直しが行われなければならない。ところが、そのような『下意上達』が適切になされていない“風通しの悪い風土”の組織は、その見直しのきっかけを失い、現状の経営環境にそぐわない戦略や施策に邁進してしまうこととなり、経営の失敗を招く結果となる。
第二に、そのような組織の経営戦略や施策に限らず、より広く自社内や外部の経営環境に潜む様々な経営上のリスクについても同様である。それらに気づいた組織の末端の従業員の情報がいち早く組織の上位者に伝えられ、適切な部署にて適切にリスク評価されて、適切な対応策が迅速に取られることが『リスク管理』上極めて重要である。そのためには、“風通しの良い風土”を作ることが特に経営者に求められる。
この『下意上達』つまり、「一般の従業員の考えが社長の考慮に響いているか、くみ取られているか」ということについて、松下幸之助は、『上意下達』よりもっと大事な問題であり、その実行は必ずしも容易ではないと言い、「よほどそれに真剣に取り組まなければできないのではないかと思います。」と述べている。
「下意が上達するためには、責任者の立場に立つ人が、部下の考えていることを引き出すという態度をとらなければいけません。課長に何でも言える、部長に何でも言える、何等はばかることがない、そういった空気が課内に、部内に、また会社全体に醸成されてくることが肝要なのです。」(「商売心得帖」)
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