- 宮崎 勇気
6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント⑪ 5)「変化の萌しを敏感に把握して善処しなければならない」①
6.補論①失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント⑪
5)「変化の萌しを敏感に把握して善処しなければならない」①
松下幸之助創業者は、「万物は生成発展する」(“自然の摂理”)との価値観に立ち、この宇宙、この世のすべてのものは、常に変化していくものだと考えました。そして、このような価値観を経営にも当てはめて、「経営というものは絶えず変化している。経営を取り巻く社会情勢、経済情勢は、時々刻々に移り変わっていく。その変化に即応し、それに一歩先んじて次々と手を打っていくことが必要なわけである」(「実践経営哲学」より)と述べ、経営環境の変化を的確に捉えて、それに応じて、あるいは、それに先んじて、経営も臨機応変に変えていかなければならないと説きました。
経営環境とその変化は、事業経営にとって”リスク”となる場合が多いと言えます。特に、それらに気づかないとか、気づいてもそれらにうまく適応することができない場合には、時に致命的な影響を経営に与えることとなります。例えば、写真フィルムからデジタルカメラへの技術の進化という経営環境の変化に対して、自らを変えて行くことによって変化に適応することに成功した富士フィルムに対して、それに失敗した米国のコダックは、その典型的な例です。
ところが、実際の事業経営においては、『変化に適応すること』は必ずしも容易ではありません。人間は、『自分の利害や感情などの私心』だけでなく、『過去の成功体験』や『過去に成功したビジネスモデルややり方』等々、様々なものに“思い込み”、それに“とらわれ”るからです。そうなると、その“とらわれたこと”を軸として、物事を見るようになります。その結果、それ以外の情報、往々にしてそこに重要な情報が含まれているものですが、それらが認識から“削除”されてしまいます。また、その“とらわれたこと”に反する情報を仮に認識したとしても、“とらわれたこと”に不利にならないように“歪曲”して、軽く評価・解釈し、『大した問題ではない』と決めつけてしまう(“一般化”)のです。
一つのヒット商品に過度に依存した状態が長く続き、次の事業の柱を育てるということが疎かになっていたところに、同業他社から強力な商品が市場投入されて巻き返されてしまったというケースも少なくありません。ここでは「自社の成功がずっと続けばいい」という期待が、いつの間にか「続くだろう」という予測となり、「続くに違いない」という“将来の事実”となってしまっている(“一般化”)のです。
この点、松下幸之助創業者は、成功した瞬間から失敗の種が孕んでいるとして、注意を促しています。「成功は失敗の父」という言葉は、同様の趣旨でしょう。
松下幸之助は、言います。「人間は心にとらわれがあると、物事をありのままに見ることができない。たとえて言えば、色がついたり、ゆがんだレンズを通して、何かを見るようなものである。」(「実践経営哲学」pp.110-111)それ故、特にその“とらわれていること”に反する、あるいは、それから外れた情報をうまく捉えることができないのです。それ故、松下幸之助は、経営者にとって最も根本となる心構えは『とらわれない素直な心を持つこと』だと言うのです。「素直な心は、そうした色やゆがみのないレンズでものを見るようなもので、白いものは白く、まっすぐなものはまっすぐに、あるがままを見ることのできる心である。だから真実の姿、物事の実相を知ることができる。」(「実践経営哲学」p.111)
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