• 宮崎 勇気

6.補論1)失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント①


6.補論1)失敗しない経営:松下幸之助とリスクマネジメント①

1)倒産のリスクへの対応

 先に述べたように、松下幸之助は、小学校4年生のときに父親が米相場で失敗して、全財産を失ったことから、大阪に丁稚奉公に出されることとなり、大変苦労した経験があった。そのため、自身で起業した後、それなりに一所懸命努力して、数年が経過した頃、従業員の数も徐々に増えてくると、“もし自分が経営判断を誤って会社を潰してしまえば、この人たちを路頭に迷わせることとなってしまう。そのようなことは決してあってはならない”との強い思いを抱くようになり、そのことに人一倍強い“責任感”を感じていた。そこで、何としても“安定した経営”をしたいと考えた。

 松下幸之助は、それまでの事業経験において中小企業の多くの経営者を見てきた中で、事業経営に失敗し、会社を倒産させる経営者の多くに共通する落とし穴があることに気づいた。それは、“これは自分の会社やからすべて自分の好きなように何をしてもいい”と経営を“私事”と考えて、自分の好きなように経営を行いがちであり、いつの間にか自分のフトコロ具合ばかり考えて、次第に従業員や得意先、取引先のことを考えるのが“後回し”になるということであった。その結果、製品は、顧客の求めるものから離れて行き、顧客の支持も得られなくなる、取引先との関係もうまく行かなくなり、従業員も、大切にされることもなく、“やりがい”もがなくなってバラバラになり、力を出し切らない。これが、多くの中小企業の経営者の経営の典型的な失敗のパターンであった。

 この点、松下幸之助は、次の様に述べている。「商売というものは、非常に難しい。しかし、また一面非常にしやすいものだとも言える。・・・己の心に囚われて物を見る場合に色々と難しさが起こってくるようだ。自分の立場からしか物が見られない。世間の声は二の次だという考え方でゆくと、事毎に支障が起こってくる。」「成功する経営者と失敗する経営者の間にある大きな違いは、私心にとらわれず、公の心でどの程度ものを見ることができるか、ということにあると思います。私心つまり私的欲望によって経営を行う経営者は必ず失敗します。私的欲望に打ち勝つ経営者であってこそ、事業に隆々たる繁栄、発展をもたらすことができると思うのです。」(「松下幸之助一日一話」p.121)

 すなわち、経営者にとっての“最大の敵”は、自分自身の心であり、それが自分の利害や感情などの“私心”にとらわれることであるということに気づいたのである。“私心にとらわれること”の弊害は、これまでも繰り返し述べてきた通り、自分の利益となることや自分の好きなことを“軸”として、物を見て、物を考えることとなり、それ以外の“重要なこと”を“削除”し、また、自分の利害や感情に都合のいいように解釈し、決めつけることで、物事の実相を客観的に見ることや客観的に考えることができなくなることである。それは、経営者にとっては、致命的な欠陥となる。それ故、“私心へのとらわれ”、換言すれば“私的欲望”を如何に克服し、“公的欲望”に転換するかということが、松下幸之助の経営哲学の中核を成すテーマとなった。それは、まさに企業の倒産というリスクへの対応という“リスク管理”であった。そのために、以下のような様々な工夫がなされたのである。

 第一に、経営者の基本的な心構えを“私心へのとらわれ”を排した“素直な心”とした。

「そのときどきの自分の利益になることのみを追い求め、肯定し、損害になることはすべて忌み嫌い遠ざけ否定する、というような姿であるともいえる」「そういう、自分のことしか考えない姿というものは、往々にして他の人々の利害を無視したり、軽視したりすることにも結びつきかねません。したがって、とかく人びとの反発、非難を受けることにもなるでしょう。そこには争いが生じ、自他ともの損失を生むことにもなりかねないと思います。」(「素直な心になるために」pp.125-126)

 ここで、「素直な心」とは、「私心なく、くもりのない心、一つのことにとらわれない心」であり、「自分の利害や感情、知識、先入観、固定観念にとらわれず、物事をありのままに見ようとする心」をいう。(「実践経営哲学」pp.160-161)

 そして、「・・・素直な心になれば私心にとらわれることなく、つねに自他とものよりよき姿を実現するためにという基準でものを考え、事を進めていくようになると思うのです。」(「素直な心になるために」p.32)

 第二に、『自然の理法に従うこと』を経営理念の一部としたこと。それは、いつも淡々と同じように光を注ぐ太陽のように、情勢や自分の利害や感情に流されることなく、「当然のことを当然にやっていくということ」を意味する。「その為すべきことをキチンとなしていれば、経営というものは必ずうまくいくもの」だと言う。ところが、実際の経営となると、そのとおりやらない場合も出てくる。“私心”にとらわれて「なすべきことをなしていない姿」であり、あるいは、なすべきでないことを無理になしている、天地自然の理に反した姿だとし、「経営の失敗というのは、すべてそういうところから出ているといってもいいであろう。」と断じるのである。(「実践経営哲学」pp.45-49)

 第三に、「事業を通じて社会の発展に貢献する」ことを「綱領」として定めるとともに、『商売は私事ではなく、公事である』『企業は社会の公器』だと位置づけたことです。これにより、事業の目的及び会社の存在意義、そして企業の使命が、「事業を通じて社会の発展に貢献する」という“公的欲望”の実現にあること(“私的欲望”は排除される)明示し、進むべき方向と達成すべき目標を確定させた。曰く、「経営といい商売といい、これ皆公事にして、私事にあらず、商売大切にその道に尽くすは君国に忠誠をいたすと同じきなり、従って、商売は常に公の心をもって行い、いささかも私心をはさまざるよう心がくべし」(「経営の心得」)

Copyright © 2018 Yuki Miyazaki All rights reserved.

(お知らせ)関連のブログも併せてご覧いただければ幸いです。今年100周年を迎える現パナソニック株式会社の創業者       である“松下幸之助の経営哲学”の現代の諸問題への応用として、最近の話題等をテーマにしたブログです。

      最新の記事は、 「私たちは“仮想現実の世界”に生きている!5)人間の認知機能の歪み①」です。

#失敗しない経営

24回の閲覧
  • Black Facebook Icon
  • Black Twitter Icon
  • Black Pinterest Icon
  • Black Flickr Icon
  • Black Instagram Icon

Copyright © 2016 Yuki Miyazaki  All rights reserved.

This site was designed with the
.com
website builder. Create your website today.
Start Now