• 宮崎 勇気

5.2)経営観 企業は社会の公器 ⑧


5.2)経営観 企業は社会の公器 ⑧

 第三に、日常の経営活動における具体的な問題に対処する場面でも、”企業は社会の公器”という信念が生み出す“社会的責任感”という情動が、重要な決断を“正しい方向”に導く。

 例を挙げる。以下の話は、松下幸之助の右腕と言われ、松下幸之助の経営哲学を最も良く理解していたと言われる高橋荒太郎元会長のフィリピン松下(PEC)の建て直しの際のエピソードである。

 当時ステレオの品質問題が起こり、その原因が、ある仕入れ先の納入しているキャビネットの品質にあることがわかった。高橋社長(当時)は、既に納入されているキャビネットの代金を支払った上で、仕入れ先を呼び、全社員を集めて、「こんなものを二度と作ってはならない」と、目の前でそのキャビネットを壊させたのである。それを目の当たりにした仕入先と全社員たちは、驚きとともにその意識が変わり、取り組んだ結果、品質が大きく改善することとなった。そして、高橋氏は、後に「高橋個人としては、そのようなこと(キャビネットを壊すこと)をするのは忍びない。しかし、“社会の公器”としての“責任感”がそうさせたのだ。」と述懐している。これこそが、”企業は社会の公器”という信念が生み出す“社会的責任感”という情動の力である。

 高橋荒太郎元会長は言う。「会社の業績が、赤字であるとか、黒字であっても適正な利益が挙がっていないという状態も、同様である。“社会の公器”であるとの“責任感”からは、直ちに改革のメスを入れるという決意が生まれて来なければならない。」松下幸之助が「すべてはそこ(社会に対してどういう責任感を持つかということ)から始まっていくだろうと思うんですね。」というのは、正にそういう意味である。即ち、“社会に対してどういう責任感を持つか”ということが、経営判断に重大な影響を与えるのである。“社会に対する責任感”を持たない人は、自分を甘やかし、適当なところでお茶を濁す、あるいは、経営を変えなければと思いつつ、変えられずにズルズルと時が経過してしまう。

“社会の公器”という、いわばバーチャルの概念を創り出し、それを繰り返し“強く願う”ことによって、それが頭の中の“内面世界の真実”となり、潜在意識のレベルで“信念”となる。そして、その“信念”がそれに結びついている“社会に対する責任感”という具体的な情動を生み出し、その強い力が経営判断において、“私心へのとらわれ”から瞬時に経営者を目覚めさせ、“社会の公器としての判断”に立ち返らせるのである。“心を使いこなす”松下幸之助の真骨頂である。

 最近では、ソーシャル・ビジネス(社会的企業)という概念が生まれている。それは、貧困や環境などの社会的課題の解決を図るための取組みを“ボランティア”としてではなく、持続可能な事業として展開すること、あるいは、そのような企業をいう。

 低利融資を通じて貧困層の自立を支援し、ノーベル平和賞を授与されたインドのグラミン銀行がその例である。松下幸之助の“社会の公器”との発想と取組みは、正にこのソーシャル・ビジネスの先駆けであり、しかも、松下幸之助は、本来すべての企業がそうであるべきだと主張するのである。曰く、「事業活動を通じて、人々の共同生活の向上に貢献するということは、あらゆる企業に通ずる企業の本来の使命であり、究極の目的である。また、そこにこそ企業の存在意義がある。」(「実践経営哲学」p.40)

 従って、松下幸之助のいう「企業の社会的責任」とは、一般的な理解とは異なり、「その事業というか、本業を通じて社会に貢献していくということだと思います。」(「企業の社会的責任とは何か?」p.18)と明言している。まさにソーシャル・ビジネスを本業とする“社会の公器”であり、その事業活動を通じて社会の問題を解決することに“社会的責任”を有しているのだと考えたのである。

このような松下幸之助の考え方は、当時としては、極めてユニークで斬新な発想であったが、上記の通り最近のソーシャル・ビジネス等の考え方を見れば、時代を先取りした発想であったと言えよう。

“社会の公器”という考え方の第五の実践的機能は、『人々の共同生活の向上に貢献する』という“正しい方向”に狙いを定め、意識をフォーカスしていくことによって、経営者も自然と『公の心でものを見ることができる』ようになり、それに関連する情報(それまでは“私心”により“削除”されて“盲点”となって見えなかったもの)が地引網の如く集まってくること(“焦点化効果”)である。そうして集まってきた情報の中から様々なヒントを得たり、また、チャンスも逃さないようになる。その結果、“目的を達成する手段”は、後から意識に浮かんでくるのである。

 私たちの通常の発想とは逆である。私たちは、先にできるかどうか手段から考えて、目的をできそうなところに設定しようとしがちである。しかし、それは逆なのである。先に方向と目的を定め、意識をフォーカスしていくことによって、情報が集まり、その結果として、目的の達成手段が見えてくるというわけである。

松下幸之助は、『強く願う』ことの効果として、次の様に述べている。「事を成し遂げるには、まずその実現への願いを“強固な信念”にまで高める。そういうものがあれば、そのための手段、方法は、必ず考え出されてくる。」

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