• 宮崎 勇気

5.社会とともにある2)経営観「企業は社会の公器」④


5.社会とともにある

2)経営観:「企業は社会の公器」④

“企業は社会の公器”であるとの考え方は、単なる抽象的な“概念”や“建前”ではなく、“実際の経営における判断基準”として機能するものであるということだ。これが第三の実践的機能である。

 松下幸之助は、実際の経営自体も“社会の公器として相応しい判断基準”によるべきことを社員に求めた。曰く、「企業の目的は、・・・その事業を通じて共同生活の向上をはかることであ(る。)そういう意味で、事業経営は、本質的には私の事ではなく、公事であり、企業は社会の公器なのである。」(「松下幸之助一日一話」p.25)「だから、たとえ個人企業であろうと、その企業のあり方については、私の立場、私の都合でものごとを考えてはいけない。常に、そのことが人びとの共同生活にどのような影響を及ぼすか、プラスになるかマイナスになるかという観点から、ものを考え、判断しなくてはならない。」(「実践経営哲学」p.26)

 また、「経営と言い商売と言い、これみな公事にして私事にあらず。・・・商売はつねに公の心をもって行い、いささかも私心をはさまざるよう心がくべし。」(昭和14年社内通達「経営の心得」より)

 しかしながら、実際の日常の経営や事業活動においては、経営者も社員たちも、人間であり、“自分が一番可愛い”から、“私心”にとらわれて、自分の都合で物事を考えがちである。自社の売上や利益にとらわれ、あるいは、自分の仕事はできるだけ少ないようにしたいなど、その頭の中は、“公の心”など入る余地のないほど、“自分のこと”で一杯になっていることが多い。

 この “企業は社会の公器”という概念は、自分の会社の“存在意義”“事業目的”に立ち返らせ、“公の心”で、“共同生活にプラスになるかマイナスになるか”という観点から、物を考え、判断していくように思考のプロセスを導くフレームワークとして機能するのである。

 ただ、実際には、この “企業は社会の公器”との概念を単に知識として頭で理解し、知っているというだけでは、フレームワークとして十分に機能しない。考えるべきことの多い実際の経営判断や事業活動の現場においては、“公の心”など入る余地のないほど、“自分のこと”で一杯になってしまっていることが多く、ついつい忘れてしまいがちだからである。

 では、これを実際に使えるようにするためにはどうすればよいか?

 それは、まずこの“企業は社会の公器”という考え方を自分なりに理解し、十分納得した上で、自分自身に繰り返し言い聞かせることによって自身の“強固な信念”とすることが必要である。そうすると、潜在意識の中に、いわばその思考プロセスの回路が形成され、それがソフトウエアのように、“企業は社会の公器”という思考のフレームワークとして自然と機能するようになるのである。人間は、自分の“信念”に従って、ものを考え、行動するものだからである。

 また、信念と化した“企業は社会の公器”という考え方は、後述する“使命感”“社会的責任感”という具体的な情動を生み出し、“私心”にとらわれた状態から瞬時にして覚醒させ、“公の心”を想起させるのである。

 このように、“企業を社会の公器”と捉えることの第三の実践的意義は、“実際の経営の判断基準”自体をも“私的から公的へ”と変えてしまうことである。

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