• 宮崎 勇気

5.2)経営観:企業は社会の公器 ⑲


5.社会とともにある経営

2)経営観:企業は社会の公器 ⑲

 松下幸之助は、早い段階から、『(事業活動)の過程が社会と調和していること』を明確に意識し、強調していた。どのくらい重視していたかは、例えば、既に昭和32年1月の経営方針発表会において述べている次の言葉からよくわかる。

 曰く、「みなさんに、この際とくにお考え願いたいことは、仕事の成果の内容と申しますか、そのあげ方と申しますか、どういう心がけで仕事の成果をあげていくかということを、深く深く検討していただきたいと思うのであります。・・・われわれが、ここに一応、四百十億円という目標をたてまして、これを実現するといたしましても、・・・まず一番に考えなければならないことは、いわゆる社会正義の線に沿って、この仕事がやれるかどうかということであります。・・・われわれが謙虚な心で自問自答いたしまして、この道に誤りがないか、社会道徳に反しないか、また業界のためになるか、ということを考え、その道に沿って、この数字が出るかどうかということです。それを業界がどうなろうが、社会がどうなろうが、この数字さえあげればいいんだと遮二無二進むということであれば、私はむしろ何もやらない方がいいと思います。そんなやり方、考え方で松下電器が繁栄しても、何がいいと言えるでしょう。これは明らかに、人間としての道に反すると思うのです。そこで、本年はとくにこういう点に重点をおいて“何が正しいか”といいうことを常に検討し、また研究し、そしてこの道に沿って、目標の数字をあげたい、というのが、われわれの念願です。したがって、みなさんの努力の仕方も、仕事の進め方も、こういうものの考え方に立って、やっていただかねばならないと思うのであります。」(「わが経営を語る」pp.83-85)

 実際の不祥事では、経営トップの方針が不明確であることが原因の一つとなっているという場合がある。例えば、社員に対してコンプライアンス(法令遵守)は当然だとの方針を出す一方で、売上のノルマの達成を社員に厳しく求める場合に、独占禁止法上のカルテルや談合などの違法行為が行われたり、過去から行ってきた違法行為を止めることができないという場合がある。特に法令を守れば、売上が確実に失われて、ノルマが達成できないことが明らかな場合である。法令を守っても、ノルマを達成できなければ、社内で厳しく処分されることとなる。このような経営トップの“目標達成圧力”というものが、社員を板挟みの状態に陥れ、自分にとってよりリスクが低いと思われる方、つまり違法行為に走らせる、あるいは、そこから抜け出せなくしてしまう重大な原因となっていたことが、経済産業省による過去の不祥事の分析の結果、指摘されている。それを避けようとすれば、社員たちが迷わないために、経営トップの“違法な手段による売上はいらない”という明確なメッセージが必要だ。

 この点、上記の松下幸之助は、社会と調和した過程を経て(社会のルールを守って)目標を達成できないのであれば、『何もやらない方がいい』とまで言い切った、つまり会社の存立自体や事業活動をすることまで完全に否定してしまったのである。それは、どのような社員も迷いようのないほど、明快なものであった。企業のコンプライアンスにおいて、社員が迷う余地のない、トップの明確な方針ほど、重要なものは他にない。

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#企業は社会の公器

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