• 宮崎 勇気

5.2)経営観:企業は社会の公器 ⑱


5.社会とともにある経営

2)経営観:企業は社会の公器 ⑱

 結局、この問題は、そのような“私心”にとらわれた者、あるいは、とらわれそうな者を経営者にした時点で決着してしまっており、その後にどのような手を打ってもその経営者を翻意させることはほとんど不可能である。その経営者を解任する他ない。

 それ故、松下幸之助は、経営者の最も基本的な心構えは、『とらわれない素直な心』、つまり自分の利害や感情などの私心にとらわれない心であるとし、成功する経営者と失敗する経営者の“紙一重の違い”は、“私心があるかないか”の違いだと喝破した。

 松下幸之助自身、常に私心が次々に浮かんでくるので、その都度私心を消すということを繰り返してきたという。そのような自分の心との葛藤の連続なのである。自分が一番可愛く、私心にとらわれやすい『弱い心』を持つ人間にとって、このような『とらわれない素直な心』を持ち続けることは実に難しい。

 そのような人間の弱い心との葛藤から目覚めさせる仕掛けが、この『企業は社会の公器』という考え方であり、第三の使命たる『企業の活動の過程が社会と調和したものでなくてはならないこと』である。

 企業が単なる民間企業であるとすれば、常に“企業倫理”によるコントロールが必要となるが、上に見た通り最近の経営者の倫理観は実に頼りないものである。これに対して、『社会の公器』つまり公的機関であると捉えるならば、公的機関が公的ルール(法令)を守るのは当たり前のこと、論理必然であって、そこに一点の曇りもない。

 また、実質的にも、『社会の発展に貢献する』ことを使命とする企業が、『社会のルール』に違反し、社会との調和しないプロセスを採ることは、“矛盾”である。社会を良くしようとして、社会に害悪を与えているからである。

 松下幸之助は、『経営の心得』3か条の一つとして、次の様に述べている。曰く、「良き経営は社会を益し、悪しき経営は社会を毒す、されば良き経営を行うためには各自肝胆を砕くべきものと心得べし」いくら『社会の発展』に貢献しても、そのやり方が社会のルールに反しているのでは、『社会を毒する悪しき経営』と言わざるを得ない。松下幸之助が目指したのは、『社会と調和した過程を経て(社会のルールを守って)』『社会の発展に貢献する』『社会を益する良き経営』であって、先に述べたような『社会を毒する悪しき経営』を明確に排除したのである。

 そのような『社会を益する良き経営』を象徴する言葉が『社会の公器』なのである。それは、会社の『存在意義』でもあり、『事業目的』でもあった。それ故、これまでに述べたように、プロセスをも含めた『社会を益する良き経営』を実践し、成果を出すべきことを経営者が自身の“強固な信念”にまで昇華させることによって、公のために仕事をするという“使命感”から“強い力”“勇気”を得る一方、“社会的責任感”を強く感じるのである。そして、社会のルールを踏み外そうとするとき、あるいは、社会のルールに反するのではないかとの疑いが生じたときに、この“社会的責任感”が強い情動として瞬時に目を覚まさせ、ストップをかけて、行動を見直させ、正しい道に戻すのである。このように『企業は社会の公器』との考えが、経営者の“強固な信念”と化していれば、企業不祥事はまず起こらないと言ってよい。

 なお、その際、「具体的なやり方は部下に任せており、知らなかった」という経営者の言い訳が通らないのは当然である。『事業を通じて社会の発展に貢献する』という事業目的かつ『社会の公器』の使命を果たす過程において『社会のルールを守ること』自体も『社会の公器』の使命の一つである以上、経営者は、少なくとも定期的に部下に報告を求めるなどしてそれらが実際に守られているかどうかを自ら確認をすべきだからである。

 経営者が、部下も人間であり、人間というものは、「悪いとわかっていてもやめられない」「暗がりでは何をするかわからない」“弱い心”の持ち主であるという人間の現実の姿をよく理解していなければならない。そうすれば、「ルールがあるから、現場では守られているはずだ」と単純に決めつけることはできないからである。

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#企業は社会の公器

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