• 宮崎 勇気

5.2)経営観:企業は社会の公器⑬


5.社会と共にある経営

2)経営観:企業は社会の公器 ⑬

 一方で、“利益”にとらわれ、利益自体を“究極の目的”とすることに対して、松下幸之助は、警鐘を鳴らす。「“利益”、それ自体が究極の目的かというと、そうではない。根本は、その事業を通じて共同社会の向上を図るというところにあるのであって、その根本の使命をよりよく遂行していく上で、利益というものが大切になってくるのであり、そこのところをとりちがえてはならない。」(「実践経営哲学」p.26)

 利益は、悪いものではなく、むしろ、企業の社会貢献という使命の達成度合いを測るものさしであって、利益を上げれば上げるほどより使命を果たし、社会に貢献できていることになると言いつつ、ここでは、利益にとらわれてはならないと言う。やや禅問答のようにも聞こえるが、この点どのように解釈すべきであろうか。

 この点、“事業活動というプロセスにおいて何を目指すのか”ということと“結果として何を達成できたのか”ということを区別して考えることが“鍵”となる。

 即ち、“利益”は、後者との関係で、企業の活動が“結果”としてどの程度社会に貢献できたかを測るバロメーターとして重要となるものだと言えよう。

 他方、前者の問題、すなわち、事業活動の“プロセス”において何を目指すべきか、何に意識をフォーカスすべきかという点は、“利益”であってはならないのである。実際、結果に過ぎない“利益”に意識をいくらフォーカスしても、そこからはいい知恵は出てくるものではないし、さらに“利益”に意識をフォーカスすると、むしろ“利益”以外のこと、例えば事業にとって本当に重要な『顧客が真に求めているもの』などが目に入らなくなり、あるいは、自分の都合のいいように『顧客のニーズ』を歪曲して考えて、客観的に見れば、経済合理性を欠くような行動をとってしまうのである。例えば、より多くの利益を上げるために自分の都合で事業を考えて、計算上の表面的な利益にとらわれ、結局『顧客の真に求めるもの』から外れてその支持を得られず、結局“取らぬ狸の皮算用”に終わったり、短期的な目先の利益に拘って、長期的な利益を見失ってしまったりすることもある。

 さらに、“利益”にとらわれることは、前述のように、それがエスカレートして、利益至上主義に陥り、利益のためなら手段も選ばなくなるという恐れもある。

 従って、事業活動というプロセスにおいて“利益”を目指すことは、百害あって一利なしなのである。

 先に述べた通り、人間の意識の座は一つしかなく、二つ以上のことを同時に並列処理することはできない。それ故、その座に“利益”が座ってしまうと、それ以外の情報が“削除”され“心理的盲点(スコトーマ)”となって、認識されなくなってしまうという重大な弊害があるからである。その削除される情報の中にこそ、『顧客が真に求めるもの』などの顧客にとって重要な情報があるからである。

 前述のJR西日本の例では、経営方針として掲げた“利益”にフォーカスし過ぎて、『できるだけ多くの乗客をスピードを上げて運ぶ』ことを優先したために、過密ダイヤや遅れに対する回復運転という過酷な施策を採る一方、団塊の世代の大量のベテランの定年退職により、その施策を実行する担い手である運転手に若手の未熟な者が多いという自社の実力など安全面のリスクが“盲点”となってしまった。若しくは、利益を重視し過ぎて、“過密ダイヤ”や“若手の運転技術の未熟さ”も自分の都合のいいように歪めて“教育不足だ”と解釈し、“日勤教育”などで厳しく教育すれば「大丈夫だ」と“決めつけ”た(“一般化”)。さらには、『コストカット戦略』からは、上記の施策の検討・実行とは切り離された独自のプロセスで、新型の自動停止装置(ATS)の設置スケジュールが検討されたため、事故のあった危険なカーブへの設置が直前に延期されてしまった。

 それ故、事業活動を行っていくプロセスにおいて意識をフォーカスすべき先は、「共同社会の向上」換言すれば「人々の役に立つこと」「人々に心から喜んでもらうこと」なのだということを松下幸之助は強調するのである。“人々に心から喜んでいただくこと”に焦点を当てて事業活動を行う。それを製品やサービスとして実現し、提供することによって、実際に顧客が喜べば、その後はいわば“因果の流れ”として、当然にそれが評判を呼び、広まって行って、その“結果”として“利益”が上がるのである。

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