• 宮崎 勇気

5.2)経営観:企業は社会の公器⑫


5.社会と共にある経営

2)経営観:企業は社会の公器⑫

 そして、“適正な利益を上げること”について、“企業の使命”との関係で、次のように述べている。「その事業を通じて社会に貢献するという使命と適正な利益というものは決して相反するものではない。そうではなく、その使命を遂行し、社会に貢献した報酬として社会から与えられるのが適正利益だと考えられるのである。」「その企業が供給する物質なりサービスの中に含まれているそうした努力、奉仕(著者注:例えば、百二十円の価値のある製品をいろいろ努力して九十円の原価でつくり、それを百円で供給すること)が多ければ多いほど、需要者や、社会に対する貢献の度合いも大きく、したがってまたその報酬としての利益も多いというのが原則だといえる。」(「実践経営哲学」pp.51-53)

 松下幸之助は、利益というものは、かつて言われたような“好ましくないもの”“後ろめたいもの”ではなく、“企業がその社会的使命を達成すべく活動した結果として社会から与えられる報酬”であり、いわばその企業の果たした社会貢献の度合いを示すバロメーターなのだと捉えることによって、使命と矛盾するものではないということ、さらに利益を多く上げれば上げる程、それだけ社会に大きく貢献していることを意味するから、それはむしろ良いことなのだということを明確に説明し切ったのである。

 実際、企業の利益は、その具体的な使い道を考えれば、決して“好ましくないもの”ではないと言う。つまり、企業の利益は、法人税や地方税、あるいは配当への税として、国家や地方自治体に納められ、社会福祉や教育の様々な施策に使われることとなる。その意味からも、企業が利益を上げて、税金を多く納めることは、社会への貢献となると言える。

 そして、企業が将来さらに社会に貢献していくためには、研究開発や設備への投資が必要となるが、その原資は、この企業の“利益”が内部留保された中から捻出されるわけである。つまり、一定の利益が上がっているからこそ、企業の将来にわたる持続的な社会への貢献が可能となってくる。さらに、企業の利益から、株主への配当と従業員の賃金アップや福利厚生の費用も出てくる。

 このようにその利益の使い道をも考えれば、企業が利益を上げることは決して悪いことではなく、むしろ、国や社会、また、株主や従業員の利益と幸せにつながるものと言える。

 以上の考察から、松下幸之助は、次のように結論づける。利益を上げることに“後ろめたさ”を感じる必要はなく、“利益”というものは、“企業の社会への貢献の結果として受け取る報酬”であり、それ故“その貢献の度合いを測るバロメーター”でもあると。

 従って、企業は、事業を通じて社会に貢献したことの報酬として、利益を堂々と受け取ればよい。つまり、「企業は、堂々と儲けるべきだ」と喝破したのである。

 それ故、逆に、「利益なき経営は、それだけ社会に対する貢献が少なく、その本来の使命を果たしえていないという見方もできるといえよう。同時にまた、別の面から見ても、利益なき経営は企業の社会的責任に反する姿だといえる。」(「実践経営哲学」p.35)

 そして、「その事業を通じて社会に貢献すること」とともに、「そこから適正な利益をあげること、そして、それを税金として国家、社会に還元していくこと」は、“社会の公器”たる“企業の使命”であり、それこそが企業の“社会的責任”なのだと結論づけた。それは、最近CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)として言われるものとは一線を画する考え方である。最近言われるCSRというのは、企業の本業自体についてではなく、それとは別の局面において、例えば事業活動を行う上で環境破壊をしないとか、法令を遵守するなど、企業が“企業市民”という社会の一員であり続けるために、負うべき責任と捉えられている。これに対して、松下幸之助のいう『社会的責任』は、本業たる事業活動自体によって、『社会への貢献』という事業目的を達成し、かつ適正な利益を上げること、つまり、社会から評価されることであって、本業自体で実際に社会の役に立つことを言うのである。

 そして、そこから「赤字は罪悪だ」という価値判断へと展開していく。曰く、「赤字を出すことは、その(社会的な)義務を果しえていない姿であり、本来それは許されないことであり、企業の社会的責任を果たし得ていない姿だという認識を自他ともにしっかりもたなくてはならない。」(「実践経営哲学」p.37)それは、“利益”を“その社会への貢献の度合いを測るバロメーター”だと捉えたことの論理的帰結である。そのような観点から、松下幸之助は、赤字に対しては、特に厳しかった。

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