• 宮崎 勇気

5.2)経営観:企業は社会の公器⑪


5.社会と共にある経営

2)経営観:企業は社会の公器 ⑪

 企業を“社会の公器”と捉えた場合に、その使命は何か?

 この点、松下幸之助は、次の3つを挙げている。

 第一に、“企業の本来の事業を通じて社会に貢献し、人々の共同生活を向上させていくこと”であり、これは、“事業目的”かつ“企業の存在意義”である「綱領」の趣旨と一致するものである。“社会の公器”たる企業の使命として、“社会の発展に貢献する”という“公的使命”を持つのは、当然のことであろう。

 第二に、その事業活動から適正な利益を生み出し、それをいろいろな形で国家社会に還元していくことである。

 第三に、そうした企業の活動の過程が社会と調和したものでなくてはならないことである。

 第一の使命は、「綱領」そのものであり、前述の通りである。そこで、ここでは第二及び第三の使命について、以下論ずる。

 まず『社会の公器』たる企業の第二の使命は、その事業活動から適正な利益を生み出すことである。松下幸之助が起業して間もない大正時代は、企業が利益を上げることは、何か好ましくないことのように考えられて、「企業は儲け過ぎだ」との批判もあった。このような傾向に対して、松下幸之助は、『企業が適正な利益を上げること』は、悪いことではなく、“社会の公器”たる性格からすれば、むしろその使命なのだとし、企業が適正な利益を上げることを肯定的に意義づけたのである。当時としては、極めて斬新な考え方であったと言えよう。もう少し詳しくみてみよう。

 まず前提として、行き過ぎた利益至上主義は論外であるとして、これを 排除する。曰く、「もちろん、利益追求をもって企業の至上の目的と考えて、そのために本来の使命を見忘れ、目的のためには手段を選ばないというような姿があれば、それは許されないことである。」とする。(「実践経営哲学」p.51)利益を過度に重視し、あまりにそれにとらわれると、それ以外のこと、例えば法令遵守(コンプライアンス)や安全という観点が“削除”され無視され手段を選ばなくなるか、あるいは、自分の都合のいいように“歪めて”解釈して、そのリスクを軽視する結果、越えてはならない一線を越えてしまうこととなる。最近でも繰り返し起こっている企業の不祥事もその例と言えよう。これは、“社会の公器”として、当然守るべき社会のルールに反することとなり、第三の使命『そうした(社会に貢献するという)企業の活動の過程が社会と調和したものでなくてはならない』ということに反することとなる。  例えば、2005年4月に起こったJR西日本の尼崎での脱線事故である。当時、私鉄との競争の激しい関西地域において、同社は、利益重視の経営戦略から、スピードアップして大量の乗客を頻繁に運ぶことを目指し、最高速度を時速100kmから120kmに引き上げる一方、余裕のない過密ダイヤを組み、ベテラン運転手が退職し比較的未熟な運転手が増えているにも拘らず、電車が遅れたときには運転手はスケジュール通りの運行を取り戻すための“回復運転”を行うべしとの方針を採った。そして、その方針に反すると、“日勤教育”と称する研修を受けさせられる。現場に任されたその教育内容は、実際には、草むしりや延々と反省文を書かせるという“いじめ”であった。  事故当日は、若い運転手(23歳)が直前の伊丹駅でオーバーランしてしまい、既に遅れを生じていた。車掌に、それを本部の輸送指令に報告しないでくれと頼むも、電話が切れたので、報告されるのではないかが気になった。また、それまでに日勤教育を受けた経験のあるその運転手は、もう二度と受けたくないと思った。

 そこで、遅れを取り戻そうと、スピードを上げて行き、時速70kmに制限されていたカーブに時速116kmで突っ込んで行ったのである。そして、一方、これらの心配と恐怖から注意が散漫になって、ブレーキ操作が遅れた。  さらに、事故現場のカーブは、前年に新型のATS(自動制御装置)の設置が予定されていたが、コストカット戦略により、延期された。それが予定通りに設置されていれば、事故は回避できたとされる。  JR西日本は、利益を最優先し、“スピードアップ戦略”と“コストカット戦略”を施策に落とし込んで行く際に、それらの施策に囚われ、それ以外の情報が削除され、あるいは、自分たちの都合のいいように歪めて解釈し、決めつけた。例えば、過密ダイヤを組んだ結果、オーバーランや遅れが頻発していた当時の状況を、経営陣は、“事故の予兆”とは捉えず、経験の浅い若手の運転手の資質と態度の問題だと捉えて、教育することを指示した。 また、コストカットにとらわれて、信じられないことに、新型ATSの設置も、スピードアップの施策と全く別個に切り離して取り扱い、事故の可能性を“削除”して、設置を延期してしまったのである。  そして、事故は起こった。  また、最近では、一流ホテルのレストランで起こった料理のメニューへの食材の偽装表示の問題がある。例えば、“芝エビ”と表示しながら、実際にはより安価で品質の劣る“バナメイエビ”を使用し、顧客が優良な食材だと誤認することを誘引した。コスト削減のプレッシャーの中で顧客を集めるために現場が考え出した苦肉の策であった。

 このように社会常識からは考えられないようなことが企業の中で起こっているのは、まさにこの“利益へのとらわれ”によって重要な情報が“削除”され、または、自分たちの都合のいいように“歪曲”されて解釈され、決めつけられた、つまり“一般化”された結果である。事が起こってから振り返れば、なぜそんなことがわからなかったのかとも思われるが、それは、無意識のレベルで機能しているため、当事者たちは、その時点では、そのことに気づかないのである。

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#企業は社会の公器

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