- 宮崎 勇気
5)社会とともにある1)事業の目的・会社の存在意義⑦
5)社会とともにある
1)事業の目的・会社の存在意義⑦
もう一つこの「綱領」との関連で指摘しておきたいのは、松下幸之助の“将来から現在を考える”という発想である。“生成発展の原理”を踏まえて、将来どのような社会の発展にどのように貢献しようとするのかをまず考えて、そこから遡って現在を考えることが特に経営者には重要だと言う。
曰く、「経営を進めていくのに、経営者はいつも将来というものが頭の中にないといかんね。五年後にはどうなるか、あるいは十年後にはどうなるか~そして、その上でいまどうしたらいいのかを考える。」「将来から現在を考える。こういう発想が経営者としての発想というもんや。」
「将来のことを考えれば、これはやらんといかん、あれもやらんといかんということになるわね。そういうことになれば、それをやると。けど、~実行するのが困難であると。なかなか出来ませんというものもある。しかし、出来ませんからやりません、というようなことを言っておったら、それでおしまいということになるわな。その目標を実現することはできんわけや。経営は成り立っていかん。」「何としても目標を実現したいと願うならば、その出来んことでも何とか出来るように考える。」
「出来んけど出来るようにするためには、どうしたらいいのかを考える。そして断固やると。それを解決する知恵を出し、努力をせんといかんわけや。だから経営者は常に将来を考えてそして現在をどうするか、いまどのような手を打つのか、そういうことを考えんといかんな。それがいかに困難であろうと、苦しくとも取り組むと。それを、今を考えてから将来を考える。現在を考えてその延長線 上に将来を考えるというようなことでは、あまりええ経営者とは言えんよ。」(江口克彦著「経営秘伝」pp.141-143より)
ところが、世の中には、松下幸之助が上で述べた“現在を考えてその延長線上に将来を考える”経営が意外に多い。あるいは、目標がないか、あっても形ばかりのものか、不明確なもので、実際の経営は、目標に向かっておらず、むしろ次から次へと発生する問題に対処するという受身の問題対処型の経営となっている場合もある。
しかし、人間には、将来に向けて“目的や目標を持つ”という能力がある。これは他の動物にはない、人間だけが持つ能力だと言われている。特に経営者は、この人間にだけ与えられた特別の能力を使わなければならないと松下幸之助は、強調するのだ。
前者の例は、一応“目標”はあるが、それは自社の過去と現在に基づいて考えられたものであるため、それらの延長線上の自分たちのやり易い“低い目標”となっている。そして、それは多くの場合“真に社会が求めるもの”との視点が欠けており、社会の支持は得られにくい。
後者の例では、そもそも目標を持たないか、あっても形骸化していたり、不明確であったりして、どこに向かおうとしているのか、方向性を持たず、社員の活動の力が分散して、どこにも向かわない。明確な“目標”を持たないと、人間は、自分中心の考えに陥り、自分にとって楽しいことや愉快なことばかりを求め、辛いことや苦しいことを避けようとするものだ。(“快楽苦痛の原則”)
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