• 宮崎 勇気

5.1)事業の目的・会社の存在意義 ④


5.社会とともにある経営 

1)事業の目的・会社の存在意義:“事業を通じて社会に貢献する”(「綱領」)④

 また、“信念”は、そこに意識をフォーカスさせ、“社会の発展の原動力となる”ために必要な情報を吸い寄せてくる結果、どうすれば実現できるかという具体的な手段や方法が後から思い浮かぶのだ。これが、「綱領」の第三の意義である。この点、松下幸之助は、次の様に述べている。曰く、「事を成し遂げるには、まずその実現への願いを“強固な信念”にまで高める。そういうものがあれば、そのための手段、方法は、必ず考え出されてくる。」人間は、“信念”を軸として、いわばアンテナを立てて、それに意識がフォーカスされて、外部世界の情報を選択して認識するため、その願いに関連する情報が、その願いを実現するための手段や方法を含めて、地引網のように集まってくるからである。インターネットにおいて、検索のキーワードを入れることによって、関連情報が集まってくるのと同様である。

 それでは、物がある程度行き渡った現代社会において、そのような“社会の発展の原動力となる”というような“使命感”を持つことができるだろうか?

 物自体が不足して“貧乏の克服”ということが大きな社会的課題であった松下幸之助の生きた時代には、そのような使命には社員の共感も得やすかったであろうが、物がある程度行き渡ってきた現代において、純粋に“社会のために働く”ことを使命あるいは信念として持つことは難しいのではないか(ケースA)との疑問も生じうる。また、世の中には、働くことは、単にそれによって給料をもらい、生計を立てるための“必要悪”と割り切っている人たちもいる。(ケースB)さらに企業の規模が大きくなって、仕事の分業化が進んでくると、顧客と直接接する機会がなくなってきて、“社会のために働く”というイメージを持ちにくいということもあろう。(ケースC)そのような中で、どのようにすれば「社会の役に立つこと」をすることが自分の使命だと思うことができるのであろうか?

 人間は、“社会的動物”と言われ、お互いが持ちつ持たれつの関係で成り立っており、そもそも一人では生きていけない。また、自分一人だけで“幸せ”になるということもできない。無人島で唯一人で財宝に囲まれていても人は“幸せ”を感じることはできない。

 一方、人間には、人の役に立つことをすることで、脳が喜びを感じるという性質のあることが脳科学の分野で証明されている。脳科学者の茂木健一郎氏は次のように述べている。「現在の脳科学では、人間の脳は、われわれが思っている以上に、利他的にできているということが、わかってきています。脳の中では、うれしいこと、生きる上で役に立つことが、ドーパミンという報酬物質の形で表現されています。・・・このドーパミンという報酬物質は、他人のために何かをしているときにも分泌されるのです。われわれは、案外、他人のために何かをするのは、うれしいのです。他人を慮る、他人のために何かをするという働きは、もともと脳の中にはある。」(茂木健一郎著「脳が変わる生き方」p.37)

 ここで、さらに重要なことは、他人のために何かをしてあげてその人が喜んだときではなく、それ以前の段階で、他人のために何かをしているときにドーパミンという報酬物質が先に出るという点である。その結果、まさに活動していること自体が楽しくて仕方がないという状態となり、脳が活性化して、潜在能力が発揮されるからである。

 そして、松下幸之助は、直感的にこれらの点に気づいていた。曰く「給料さえ高ければ、それだけで人は喜んで働くかというと必ずしもそうではない。~結局、人間には“欲と二人連れ”で、利によって動くという面と、使命に殉ずるというといささか語弊があるが、世のため人のために尽くすところに喜びを感ずるといった面とがあるわけである。」(「人事万華鏡」p.170)このような人間の持つ“利他的な性質”から、現代においても、条件が整えば、“社会の発展の原動力となる”という考えを持つことは可能であると考える。

 実際、現代においても、「社会に貢献する」ことを経営者と社員が、事業の目的として真っ直ぐに信じて事業を行い、現に成果を挙げている会社がいくつも存在している。それらの企業の事例に学ぶということも一つの方法であろう。これが第一の解決法である。最近では“ソーシャルビジネス(社会的企業)”という企業が現れている。社会問題の解決を目的として収益事業に取り組む事業体である。松下幸之助の「社会の発展の原動力となる」「事業を通じて社会の発展に貢献する」という「綱領」の考え方は、まさにこのソーシャルビジネスそのものであり、すべての企業は、社会が必要とするから存在する社会的存在であって、社会の発展に貢献することが、その事業を行う目的であり、使命であり、社会的責任なのだと考えた。

 このように元々人間には、他人のために何かをすることに喜びを感じるという脳の性質があるにも拘らず、それを感じられないのは、“自我”の殻に覆われて、その性質に気づかず、また、それに気づくような機会がなかなかないからではないだろうか?そうだとすれば、“とらわれない素直な心”を持つことで自我の殻から抜け出して、そのことに気づくような機会を作ればよい。つまり、自分以外の他人のために行動してみるのだ。それが第二の解決法である。例えば、最近頻発する地震や台風、集中豪雨などの災害を被った地域においてボランティア活動に参加することもよいだろう。あるいは、自分の得ている収入の一部をそれら被害にあった人々に、また、世界の貧困や病気に苦しむ人々に寄付してみることもよいであろう。それは、自分に余裕があるから寄付するのではなく、自分の得ている少ない収入の一部をシェアするのだ。

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#事業の目的と企業の存在意義

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