• 宮崎 勇気

5.3)経営環境の変化の“萌し”を敏感に感じ、善処していく ③


5.社会とともにある経営

3)経営環境の変化の“萌し”を敏感に感じ、善処していく ③

 先に述べた「成功の原因」や「失敗の原因」というものが何かということは、どのような事業であっても、常に考え続けて行くべきものであるが、それらを予め特定することが極めて難しいという場合もある。

 例えば、新しい市場を作り新規事業を起こすような場合など、その事業の経験が自社にも他社にもないことから、参考となる情報がなく、「成功の原因」や「失敗の原因」が明確でないという場合もあろう。クロネコヤマトの宅急便でお馴染みのヤマト運輸が、小口配送事業を起こしたときに、当時の小倉昌男社長が、『荷物を取り扱う密度』が重要な成功要因だと捉えて、徹底してそれに拘り、密度を高める上での障害を一つ一つ克服しつつ、実現して行った結果、他の追随を許さない事業の成功につながったことは、例外であろう。(小倉昌男著『自ら語るヤマト運輸元会長小倉昌男の経営哲学』日経ベンチャー)

 また、顧客のニーズが主観化し、多様化して、しかも短いサイクルで変化していく成熟市場でも、同様に、予め顧客のニーズを特定することは容易ではない。

 このような場合にこそ、「二尺ほど先をトントンと杖で確かめながら」“試行錯誤”あるいは“仮説と検証”を小さく繰り返しつつ、進むべき方向を小まめにかつ慎重に確認しながら、進めていく、松下幸之助の提案するアプローチが最も合理的であると言えよう。机上の空論を排し、顧客のリアルなニーズを素早く確実に掴むことができる一方、失敗による損失を最小限に抑えることができるからである。

 この点、経営コンサルタントの三谷宏冶氏は、企業戦略に関する二つの立場、即ち、ポジショニング派(儲かりうる市場を見つけて儲かる位置取りをするべきと考える)とケイパビリティ派(企業の能力の差別化を図るべきと考える)との100年に亘る長い論争の歴史を概観した後、現代のような「予測が極めて難しい時代」においては、いずれの立場も不十分であって、“やってみなければわからない”とし、「闇夜のドライビング戦略」(アダプティブ戦略)という考え方が登場するに至っていると述べている。

 それは、「未来ではなく、現在に対応していく」しかないとして、具体的には、「現場の知を信じ、衆知を集める」、また、予測・推測するのではなく、「実際にやってみる」ことを重視する考え方である。例えば、グーグルは、AとBという2つのやり方を両方やってみて、よかった方を採用するという「A/Bテスト」を7000回実施する(2011年)という超・試行錯誤型経営によって、次々に新たなニーズに応えるソフトを提供し続けて成功している。(「経営戦略全史」三谷宏冶著pp.330-338)

 実は、“試行錯誤”こそ、人間の脳の自然な学習のプロセスなのである。また、韓国のサムスンが携帯電話について何百種類ものモデルを同時に出し、いち早くその地域の顧客のニーズを掴んでいるのも、その例と言えよう。この経営戦略100年の大論争の末に、しかも、経営の実践の中から生まれたこの“超・試行錯誤型経営”こそ、まさに松下幸之助が述べた「必ず杖をついてトントントントン・・・ニ尺ほど先を杖で確かめて歩く」経営の実践事例に他ならない。

 但し、それは、やみくもに色々なことをやることではない。自ら経営環境や顧客のニーズの変化、同業他社の動きなどあらゆる要素を考慮しつつ、“顧客の立場”に立って、考えて考えて考え抜いて、“仮説”を立てた上で、その仮説を“検証する”ために、実際にモノを作って顧客に提供してみて、その声を聞く“試行”プロセスを小さく繰り返すのである。仮説を立てても、それを検証せずに一気に本格的に量産に入って失敗すると、そこから生じる損失があまりにも大きい。その仮説が、真に“顧客の立場”に立って考えられたものでなく、自社の都合から考え、それが顧客のニーズだと決めつけるような場合が、特に危険である。その例は、日本の家電業界に多く見られた。

 それ故、小さく試行する。今で言うテストマーケティングである。プロトタイプの段階で行う企業もある。そして、素早く小さな“失敗”をたくさんして、そこから素早く“学習する”、そして“軌道修正”していくのだ。こうして、それを短期間に高速でたくさん行い“試行錯誤”を繰り返すことによって、仮説が検証されて淘汰され、適切な仮説が絞り込まれていくのである。そうして、『顧客の真に求めるもの』が明確になって行く。

 特に、顧客のニーズを顧客自身に尋ねてもわからないというように、顧客ニーズの特定が困難である場合には、このような“小さく賭ける(Little Bets)”という戦略が有効である。ハーバード・ビジネス・レビューなどで執筆しているピーター・シムズによれば、この戦略によって成功している企業として、グーグルやピクサー、アマゾン、スターバックス、P&Gなどがある。

 顧客の声を聞くという場合に、商品の現物がないところで聞く場合と実際に商品を目の前にして聞く場合とでは、回答の内容が変わってくるからである。前者の場合、どんな機能や性能が欲しいか(Whatというオープン・クエスチョン)と問われても、その人の経験や考え方、想像力の範囲でしか答えは出てこないが、後者のように目の前にメーカーの提案する商品があるときに、このような商品が気に入るかどうか(イエスかノーかで応えられるクローズド・クエスチョン)を問われれば、明確に回答しうるからである。

もちろん、併せてこちら側には、『顧客の立場』に立つとともに、わずかな変化や現在に既に現れている変化の予兆を敏感に感じ取る高い感性がなければならない。松下幸之助の次の言葉は、ここでも生きてくる。曰く、「すべて事には“萌”がある。小さいことが大事に至る。この“萌”を敏感に把握して、善処していかなければならない。さらにいえば、匂いによって嗅ぎ分け得るほど鋭敏であってほしい。」(昭和20年1月松下電器経営方針発表会より)

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