• 宮崎 勇気

5.3)経営環境の変化の“萌し”を敏感に感じ、善処していく ②


5.社会とともにある経営

3)経営環境の変化の“萌し”を敏感に感じ、善処していく ②

 事前に失敗の原因を無くしておくべく用意周到な計画を立てておけば、失敗は無くなると言い、他方で、“めくらさん”のように一歩先を杖で確かめながら進むべきだと言う、この一見“矛盾”とも見える松下幸之助のメッセージは、どのように解釈すべきであろうか?

 この点に限らないが、松下幸之助の経営哲学においては、一見矛盾する二つの主張や一般的には現実の世界ではありえないと思われるようなことが語られることがある。

 そのような“矛盾”を捉えて“批判”する向きもあるが、それは“的外れ”である。松下幸之助は、ここで“客観的な事実”を述べているわけではない。ここで、松下幸之助が強調するのは、“事実”ではなく、“心の持ち方”なのだ。経営者が直面する、それぞれの局面において、経営者にとって最も役に立つ“心の持ち方”を選んで行くことが、人間にはできるし、そのような人間に与えられた“選択することのできる能力”を最大限に活用すべきだというのが、松下幸之助の主張するところなのである。『人生も仕事も心の持ち方次第』だと喝破した松下幸之助の面目躍如たるところである。

 ここでも同様に考えられる。すなわち、松下幸之助の二つの主張は、いずれも経営者の直面する局面における経営者としてのあるべき“心の持ち方”、つまり、“心構え”のことを述べているのだと考えれば、そこに“矛盾”はないのである。

 ここでは、経営者の直面している局面が異なる。一方は、計画を策定する段階における心構えであり、他方は、その計画を実行する段階における心構えである。

 つまり、計画の策定段階では、まず第一に、経営目標を達成するために何が必要か、また、重要かという“目的・手段の思考プロセス”から、“成功の原因”(重要成功要因)を予め徹底して考え抜いて、成功の原因を作るための施策を立てる。同時に、第二に“結果から原因を追究する思考プロセス”によって、経営目標及びそれらの対策の“失敗の原因”を予め考え、その根本原因を追究してその対策を考え、それらを計画に反映して、失敗の原因を事前に無くしておく。このように、“成功の原因をつくる”“失敗の原因を無くす”という二つの側面から徹底的に検討し尽くした用意周到な計画を作るべしとの“心構え”を以って、そのような徹底した計画を作るということである。ここで、例えば『どうせ先のことはわからないのだから、起こったときに考えればいいではないか』『先のことをいくら想定しても変わってしまえば意味がない』などと考えて、計画の策定に手を抜いてはならない。

 しかし、一旦計画が完成して、実行の段階に至ったときには、その自身の作成した計画自体にとらわれてはならない。いくら用意周到な計画と言っても、先に述べた通り、所詮“人間”のやることであるから、その前提となっている“事実の認識”に“誤り”があるかもしれないし、“計画上の施策”にも“誤り”があるかもしれない、さらには“経営環境”もその後“変化”しているかもしれないし、計画に影響のあるような“想定外の出来事”が発生するかもしれない。少なくとも、そのような様々な理由から“当初の計画とのズレ”が常に起こりうるのだということを念頭に置いて、それらのことが起こっていないかを慎重に確かめながら、計画を実行して行く、そして、それらの計画との“ズレ”やその“予兆”に気づけば、直ちに計画を“変更”し、都度適切な手を打って行くというわけである。

 この点、松下幸之助は事業の経営について「大胆にして小心であれ」として次のように述べている。曰く、「事業の経営は気宇を大きくし、しかも一面、神経質でなければならない。“大胆にして小心”でなければ真の仕事はできない。~大胆である反面、あたかもメーターの針の如く、わずかの電流にも針がふれる程、神経質でなければならない。各位は経営に対して、このメーターの針の如く鋭敏であってほしい。すべて事には“萌”がある。小さいことが大事に至る。この“萌”を敏感に把握して、善処していかなければならない。さらにいえば、匂いによって嗅ぎ分け得るほど鋭敏であってほしい。」(昭和20年1月松下電器経営方針発表会より)何を為すべきかを決断するに際しては“大胆に”、そして、それを実行する段階では、“小心に”変化の“萌し”を敏感に捉えて、機を逃さず、的確に対応していくということであろう。

 このように考えれば、松下幸之助の述べる二つの主張の間に“矛盾”はないし、“成功の原因をつくる”一方“失敗の原因を無くす”ことのできる用意周到な計画の策定と実行ができるとともに、実行段階においては、そのような計画の“前提”や施策の“誤り”の修正や“想定外の出来事”への対応、“環境の変化”への適応をも的確に行うことが可能となるのである。即ち、それぞれの局面における経営者の“心構え”として、いずれも重要なのである。

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