• 宮崎 勇気

(2)人を使いこなす ①社員稼業”


4)人を使いこなす

(2)個人の能力を最大限に発揮させる 

 天理教の総本山で目の当たりにした光景、即ち日本全国から集まってきた信者たちが、嬉々として働く姿に衝撃を受けた松下幸之助は、自分の会社でも、社員たちがあのように働くようになるにはどうすればよいかを帰りの汽車の中で、また、帰った後にも、考えて、考えて、考え抜いた。そして、先に述べた通り、その数か月後の昭和7年5月5日に“真の創業”として大阪の電気倶楽部において第1回創業記念式を開き、「産業人の使命は貧乏の克服である。社会全体を貧より救って、これを富ましめることである。」と宣言し、「諸君は、縁あって松下電器に職を奉じているからには、わが松下電器の使命に絶大なる歓喜と責任とを自覚しなくてはならない。この責任を自覚しなものは、遺憾ながら無縁の衆と断じなくてはならない。」と述べ、“私的欲望”“公的欲望”に転換させ、“使命感”“責任感”を強く求めたのである。松下幸之助の言葉に感銘を受けた全社員163名が次々に壇上に登って所感を述べたとの逸話が残っている。

 それに加えて、松下幸之助は、さらに“社員稼業”という考え方を提案し、また、“愉快に働く”ことを社員に求めた。これらのことは、いずれも社員個人の能力を最大限に発揮させることにつながった。後二者について、以下に説明する。

① 社員稼業”①

 松下幸之助は、若い頃から病弱で、会社を休むことも度々あったため、事業が拡大してくると、自分一人ですべての事業の経営にあたることができなくなり、一つひとつの事業を信頼できる部下に任せて行くこととなった。そのような中で、自然と“事業部制”という仕組みが生まれたのである。それが導入された1933年5月当時、世界でも極めて珍しい、事業毎にその開発から製造、販売までのすべてを一人の事業部長に任せて、責任を持たせる「自主責任経営」のシステムであった。この事業部制という仕組みの故に、会社の事業がより大きく拡大発展しただけでなく、優れた社員に“事業部長”を経験させることで、次世代の経営者を育てる、いわば“経営者を育成する学校”の機能をも果たした。

 しかしながら、すべての社員に事業部長という“職位”を経験させることはできないから、それに代わるものとして、松下幸之助が考えて、社員たちに提案したのが、この“社員稼業”という“心の持ち方”である。即ち、社員自身の“心の持ち方”を変えることによってその“意識”を変える、つまり、“単なる一社員”ではなく、自分の担当する業務を“一つの事業”と捉えて、自分をその事業の経営者とみなすことで、“経営者としての意識”を持つことができないかと考えたのである。変えるのは“心の持ち方”だけである。そうして、“経営者としての意識”を持つことができれば、物の見方や考え方も“経営者としての物の見方・考え方”に変わって行き、その“行動”が変わり、仕事の“結果”も全く違ったものとなってくるからである。

 「人生も仕事もすべては心の持ち方次第だ」と考えた松下幸之助の真骨頂である。曰く、「みなさんが松下電器の社員ということについて、“これは自分の稼業なのだ”“私は松下電器の社員稼業の主人公なのだ。これは、言わば自分個人の事業なのだ”そういうふうな考えに徹しられたならば、みなさんの頭からは想像もできない、偉大な力が生まれてくると思うのであります。」(1963年度経営方針発表会にて)

 確かに、与えられた仕事をただこなすだけの受け身の意識(“サラリーマン根性”)では、仕事中の本人の関心は全く別のところにあることが多いから、目の前の仕事については、ただ何も考えず機械的にこなすという、“思考停止状態”に陥る。これに対して、“経営者の意識”を持つことができれば、それを“一つの事業”として捉えて、どうすれば“顧客”(自分の仕事の成果を引き渡す社内の相手)の役に立つか、また、どうすればその“事業”を効率化し“収益”が上がるようにすることができるかということを考え始める。そうすると、そもそも全体の事業活動との関連において、今やっている作業が本当に必要なのかとか、もっと重要な仕事が他にあるのではないか、あるいは、この仕事をやるとしても、もっと効率的なやり方があるのではないかというより根本的なところから考え直すこととなり、会社全体の目標実現という観点からより重要な仕事を提案したり、また、その仕事をやるとしても、より効率的なやり方を提案したりすることにもつながってくる。つまり、“経営者の意識”を持つことによって、“経営者の視点”に上がり、“経営者の視野”に拡がって、意識をフォーカスする先(“焦点”)が経営者のそれに変わり、見えるもの認識しうるものが違ってくるだけでなく、“思考のフレームワーク”も拡がり、“経営者としての思考”をし始めるのだ。

Copyright © 2017 Yuki Miyazaki All rights reserved.

#社員稼業

1,091回の閲覧
  • Black Facebook Icon
  • Black Twitter Icon
  • Black Pinterest Icon
  • Black Flickr Icon
  • Black Instagram Icon

Copyright © 2016 Yuki Miyazaki  All rights reserved.

This site was designed with the
.com
website builder. Create your website today.
Start Now