• 宮崎 勇気

3.8)人間大事の経営(まとめ)⑥


3.8)人間大事の経営(まとめ)⑥

 また、松下幸之助の考える経営、即ち「人間が相寄って人間のために行う活動」、あるいは事業経営の究極の目標である“物心ともに豊かな人間社会の実現”にいう“人間”には、当然企業の“従業員”も含まれている。

 それ故、松下幸之助は、従業員に対して、「十分に人生の幸福を味わい、人生を全うし、その上に次代を良くすることを理想としている」として、“物心ともに豊かな社員”となることを理想とし、“仕事を通じて人間的に成長すること”を期待するとともに、従業員が“犠牲”になるのではなく、「従業員の労が適当に報いられることは当然だ」(昭和7年5月5日第一回創業記念式での所主所感より)と明言している。実際、その後の社員に対する福利厚生も手厚く、“家族”並みの配慮がなされていたと言っても過言ではない。究極の目標として“物心ともに豊かな人間社会の実現”を目指す、その経営の基礎には、従業員を含めた“人間に対する大きな愛”が常にある。

 これは、従業員の幸福というだけではない。会社の事業という観点からもそれは必要なことであった。逆に言えば、もしも会社の従業員が上司や会社、家庭などに何らかの“不平不満”を持っているならば、“気分”がくさって、仕事に注力することはできず、ましてや“お客様を大事にする”ことなどできるはずがないからである。また、「感謝の心、謙虚な気持ちを忘れない」と言っても、無理であろう。つまり、“お客様大事の心に徹する”ということは、それを担う従業員も“人間”である以上、“社員の満足”(自分自身の問題を抱えて、心が閉じてしまうのではなく、少なくとも“一応の満足”を得て意識が外に向かうレベルであることが必要である)が前提としてどうしても必要なのである。もちろん、社会主義の国ではないから、すべてを満たすことは難しいかもしれない。しかし、少なくとも会社や経営者の姿勢として、社員を大切に思い、その思いが様々な面に社員への配慮として現れていることが重要である。

 松下幸之助の起業直後は、会社の資本等の財務的基盤が脆弱であったこともあり、“物をつくる前に人をつくる”とほとんど唯一の経営資産であった従業員を特に大切にした。松下幸之助は、社員が仕事を通じて人間として成長することを願うとともに、そもそもすべての社員は、人間として“無限の可能性”を持ち、その人独自の“持ち味”を必ず持っていると考えており、従業員の悪い所よりも良い所を意識的に見るようにして、各人の良い所を見出し、“適材適所”で思い切って人に仕事を任せ、大胆に人を使った。 

では“人をつくる”というのは、どのような人をつくるのであろうか。

それは、人間的な成長を前提として、自社の経営理念を理解して信念とし、“経営者の意識”を持つ“経営が分かる人材”である。例えば、松下幸之助が世界でも極めて早い段階で導入した、事業ごとにその開発・製造・販売の権限と責任を一人の事業部長に委ねる「事業部制」は、若手経営者の育成に大きな効果があったし、自分に与えられた仕事をひとつの“事業”として見る“社員稼業”という考え方を「経営のコツここなりと気づいた価値は百万両」と社員に提唱したことも、“経営者の意識”を持ってもらいたい一心からであった。

また、すべての社員が、“仕事三昧”で仕事に我を忘れて没頭した自分と同じように、“世の為人の為”に事業を行い、“社会の発展の原動力となること”“使命感”を持ち、“無上の生き甲斐”を感じて歓喜を以って“愉快に働く”ことを社員に提案した。松下幸之助は、人間には、人の為に何かをするということに喜びを感じる“利他の心”があるという人間の本質を見抜いていた。これらはいずれも、生活のためとか、言われて“義務感”から仕方なく仕事をするというのではなく、また、社員たちをアメとムチで働かせるのでもなく、社員たち自身の中に“情熱”というエネルギー源となる“使命感”という内発的動機を見出させて、その内発的動機から自主的積極的に、さらにはワクワクとして情熱を以って仕事をすることを提案しているのである。それは、人間が最も“やる気”を出して、その潜在能力を発揮し、高い成果を挙げることのできる状態であることは、既に科学的に証明されていると言われる。(ダニエル・ピンク氏)

その一方で、「企業は社会の公器」と位置づけて、社会からヒト・モノ・カネを預かって事業をさせていただいていることから、社会に対してその発展に貢献することが社会的使命であり、その“社会的な責任感”を強く持たなければならないと強調し、“甘え”を排した。近時の神戸製鋼所を始め、三菱マテリアルの子会社、東レの子会社などの製品のデータ改ざん事件も、実質的に品質に問題がないから、多少法律や顧客との契約に違反しても許されると勝手に正当化していた現場の“甘え”からくるものであり、企業というものが“社会の公器”であるとの“社会的責任感”があれば、“そんなことは許されない”との判断が現場で瞬時になされていたものと思われる。

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