• 宮崎 勇気

(2)「一商人なり」①商売の本質を分かっている④


3)お客様大事の心に徹する

(2)「一商人なりとの観念を忘れず」

   ①商売の本質を分かっている ④

 次に、後半の「その上で収支を立てる」ことについて述べる。「人々の役に立つ」ことだけで“利益”を度外視していては、それは“商売”や“事業”とは言えない。それを“商売”や“事業”として続けて行くためには、“収支を立て”て、“利益”をあげなければならない。そのために「人々の役に立つ」一方で、利益が上がる仕組み、今でいうビジネスモデルを考え出さなければならない。松下幸之助は、“社会の公器”たる企業の使命の一つとして、「適正な利益を上げて、国家社会に還元すること」を挙げている。そこで、次のステップとして、「収支を立てる」ために知恵を絞り、創意工夫をすることが必要となる。

 ここで大切なことは、「人々の役に立つ」こと(“利他”)と「その上で収支を立てる」こと(“自利”)というこの2つのプロセスを分けて考えること、そして、この二つをこの順序で(利他→自利)行うということである。それによって、“自利”と“利他”を両立させることができるからだ。この点にこそ、商売のいわば“奥義”があると言えよう。

 多くの企業が失敗するのは、これらの2つを同時にやろうとするからだ。前述の通り、人間の意識の座には、一つしか座れず、人間の顕在意識は、同時に二つ以上のことを処理する“並列処理”ができないからだ。それを無理にやろうとすると、いずれかを優先することとならざるをえない。とすれば、自分の利害にとらわれ、“自利”が勝って、“如何に自分が利益を上げるか”ということを優先して、焦点化効果によって、“人々の役に立つこと”が“削除”され、“盲点”となって見えなくなってしまうか、アイデアが出ても、“歪曲”されて、重要でないと切り捨てられてしまうのだ。

 それ故、これらを二つのプロセスに分けて、一つずつ順に夫々のプロセスを行い、一つずつ順に意識をフォーカスしていく必要があるのだ。この点、米国のウオルト・ディズニーのCEOロバート・アイガー氏は、次のように述べている。「自分たちが高い品質を追求したものを世界に届けることができれば、儲けは自ずと付いてくるはずです。しかし、質よりも前に“コスト”が来てしまうとリスクを取らなくなり、恐れるようになってしまうのです。それはどんな偉大なアーティストにも言えることです。」“利益”に軸足を置いてしまうと、リスクが大きなものに見えて(“歪曲”)、挑戦しなくなるからである。

 名古屋を発祥とするコメダコーヒーは、このような考え方をみごとに実践している成功例と言える。通常喫茶チェーンの業界では、“効率”や“回転率”を重視した経営がいわば“常識”である。即ち、小さなテーブルをたくさん詰めて並べ、同時に多くの客が入れるようにするとともに、絞り込んだ画一的な商品と接客のマニュアル化で“効率化”を図る。また、一定の時間が経てばテーブルを片付けて、客に出て行くよう無言の圧力をかけ、回転率を上げるのだ。しかし、それは、客の立場から見れば、居心地は良くないし、くつろぐことができない。これに対して、コメダコーヒーでは、“効率”という自社の都合よりもまず顧客のために「居心地のいい場所をつくる」ことを最優先し、ゆったりしたスペースの四人掛けのソファを基本とし、“回転率”を度外視して“長居大歓迎”と訴えた。また、「パンの耳を切る」とか「ミルク少な目」など客の細かい注文に応じるだけでなく、相手に応じて、例えば子供なら「ソーセージを細かく切りましょうか?」などと店員の方から客に対して積極的に提案をする。このように客の求めることに応え、「役に立つ」ことによって、リピーターが増え、しかも老人から主婦、ビジネスマン、学生などあらゆる階層の人々が、一日中切れ目なく来店するようになった。

 その一方、「収支を立てる」ために様々に知恵を絞り、創意工夫をしている。例えば、材料は全店舗分をまとめて大量に安く仕入れるだけでなく、絞り込んだ材料を“共用材料”として有効に活用し、それらをベースに多様なメニューを実現しながら、廃棄損を最小限に押さえている。コメダコーヒーは、まさに「人々の役に立つ」一方で、「収支を立てる」工夫をして成功している例と言える。

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#一商人なりとの観念を忘れず

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