• 宮崎 勇気

人を使いこなす(1)“物をつくる前に人をつくる”②


3.人間大事の経営

4)人を使いこなす

(1)“物をつくる前に人をつくる”②

 また、“短所”に見えることも、それが逆に生きるような“環境”に変えてやれば、それが大いに生きて“長所”に見えてくることもある。先に述べたように、“短所”と“長所”とは、一体であり、置かれた環境によって、それが“長所”に見えたり、“短所”に見えたりするのである。

 この点、松下幸之助は、戦国時代の三人の武将とホトトギスの例を引き合いに出して、次のように説明する。もし自分が鳴かないホトトギスを見たならば、織田信長の「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス」、豊臣秀吉の「鳴かぬなら、泣かせて見せようホトトギス」、あるいは徳川家康の「鳴かぬなら、泣くまで待とうホトトギス」のいずれでもなく、「鳴かぬならそれもまたよしホトトギス」と言うだろうと述べている。鳴かないというそのホトトギスの特徴や性質を無理に変えようとするのではなく、そのホトトギスのありのままの特徴や性質をどうすれば活かせるかを考え、それが活きるような条件や環境を与えるのである。

 人間には、「人間を含む万物を活かすことのできる本質」があると考え、次のように述べている。曰く、「この世に無駄なものはない。役に立たない人もいない。そう思うのは、その使い方を知らないからだ。」

 また、人を信頼して、仕事を任せた。60%の可能性があると見れば、思い切って任せたのだ。それで、9割方間違いはなかったと言う。曰く、「各責任者は、部下を信頼し、各自それぞれの持ち場に応じた権限を与え、自己の仕事に責任をもたせるようにしなければならない。~責任にふさわしい権限を与え、各自の権限と責任の範囲内において、自らの創意工夫を生かし、最善の仕事を行わせるようにしなければならない。人は、責任と権限を与えられれば、その信頼に応えて自己の全力をつくすものである~」(「人事の基本方針」より)その際に、こまごまとした指図を行うと、その人の創意工夫を殺し、部下に依頼心をもたらすから、大きな意味の指導のみとすべきだとしている。

 そして、部下の声をよく聴いた。かつて自分が勤めていた会社で、上司に二股ソケットを提案したが、欠点を指摘され、採用されなかった。指摘された点を修正して、再び提案したが、また、欠点を指摘されて、没にされた。これで、「課長は言うこと聞きよらん」となって、もう言うのを止めた。そして、それならば、自分で会社を興してやってやろうじゃないかと考えた。これが、自ら起業するに至った理由の一つでもあった。この体験から、部下が真剣に考えて出してきた提案に対しては、決して“出鼻をくじかない”“まずほめる”。その内容がつまらないと思っても、自分で一生懸命考えて提案を持ってきたこと自体を褒めた。「熱心で結構や」と。それで、部下はまたやる気を出して、考え、新たな提案を持ってくるようになる。そのようにして次々と生まれてくる“提案”の中から「これは」と思われるものを採り上げて行けばよいというのである。

 このように社員が皆積極的に自分で考えて、上に提案をしていくという雰囲気が広がり、それが会社の文化や風土となっていく。そのような文化や風土が醸成されて初めて、後述する“衆知を集める”ということも可能となる。

 これが逆に、例えば、ワンマン社長が部下の意見を聞こうとせず、下手に意見を言おうものなら、叱り飛ばされるような風土の下では、社員は、だんだんと上に対して意見を言ったり、提案したりしなくなり、遂には、言われたことだけをやり、自ら考えることすら放棄してしまう。しかし、先にも述べた通り、社長一人では実際には何もできないのである。すべての社員が活き活きとして、自分で考え、行動したり、上に提案したりすることは、企業としての“知恵”と“エネルギー”の双方の点で、どれだけ優れたワンマン経営にも勝ると言えよう。こうして松下幸之助は、社員の意見をよく聞くことによって、社員の“意欲”を引き出し、“力”を発揮させることに長けていた。

 一方で、叱るべきときは、叱る。それも激しく叱った。但し、私情を以て叱るのではなく、“使命感”から、“公の立場”“責任感”から叱るのである。“大きな失敗”は叱らない。本人は痛いほどわかって反省しているから、追い打ちをかけるようなことはしない。むしろ、慰める。しかし、“小さな失敗”で、放置していると、将来大きな失敗につながる恐れのあるような失敗は、厳しく叱る。

 そして、大切なことは、繰り返し伝える。塩は、実際に舐めてみて初めてその味がわかるものだと言い、“現場現物主義”を重視した。それ故、机上の空論を嫌い、知識や理論だけで仕事をする「本読み」になるなと強調した。

 それでは、具体的に、どのような人をつくるのか?

 昭和48年に新しく任命した教育訓練センターの所長に対する、松下幸之助の次の言葉からわかる。曰く、「君、わかっているな。経営のわかる人間をつくるんやで。全員がそうならなあかんのや。大変な仕事やで。~皆が『経営をやっているんだ』『社会への奉仕ができているんだ』と思えるように、そういうことを実現できる人を育てないといかん。」それは、“事業を通じて社会に貢献する”という会社の“使命”を理解するとともに、後述する“社員稼業”を実践し、“経営者の意識”を持って、仕事のできる人材である。従って、人を育てるに際しての拠り所は、やはり会社の“使命”であった。

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#物をつくる前に人をつくる

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