• 宮崎 勇気

4)人を使いこなす(3)“人間への愛”にもとづく経営③


4)人を使いこなす

(3)“人間への愛”にもとづく経営 ③

 これに対して、松下幸之助の経営哲学には、その根底に“人類への大きな愛”がある。松下幸之助の経営哲学こそ、これからの“知恵の時代”における経営のあるべき姿を提示するものだと言えよう。

 松下幸之助の経営哲学によれば、そもそも“人間”には、“宇宙や自然とともに人間社会を発展させていく”“使命”があるとし、その“使命を実現する手段”として“企業”“経営”というものがあると捉える。それ故、事業経営の究極の目的は、“物心ともに豊かな理想的な人間社会を実現すること”であるとし、それを250年かけて実現していくのだとする「250年計画」というものを発表した。つまり、“経営”とは、「人間が相寄って、人間の幸せのために行う活動」であるという。そこには、“人間への大きな愛”がある。

 この点は、松下幸之助が、経営者にとって最も重要な心構えであるとする“素直な心”の内容の一つとして、次のように述べているところからもわかる。曰く、「素直な心というものは、人間が本来備えている広い愛の心、慈悲の心を十二分に発揮させる心である。」また、経営者の資質について、「経営者にとって大事なことは、何と言っても人柄やな。結局これに尽きるといっても、かまわんほどや。まず、暖かい心というか、思いやりの心を持っておるかどうかということやね。」と述べている。“思いやりの心”を持たない経営者は、得てして、“経営効率化”を狙って、管理型マネジメントに行きやすいと言えよう。

 松下幸之助は、このような考え方に基づき、“自社のみの繁栄”を目指すのではなく、取引先や同業他社との“共存共栄”を目指し、自社の事業活動に関わる顧客や取引先、従業員、株主すべて人間の幸福や繁栄を目指すのである。このような考え方が実際の取引における実践を通じて相手に理解されていくと、その事業活動に関連する社員や取引先、顧客などの人々は、利益の取り合いをする“敵対者”とはならず、むしろ共通の利益を生み出していく“協力者”(ビジネスパートナー)となるから、相手からの“協力”を得やすくなり、より力強い活動を展開していくことができる。(「素直な心になるために」p.67)

 また、松下幸之助は、社員の長所を見て、それを活かし、社員の意見をよく聞き、社員を先に信頼して仕事を任せ、また、年功序列や終身雇用、手厚い福利厚生の制度により、社員の生活の“不安”を取り除き、仕事に専念できる環境を整えた上で、内から外へ、意識をフォーカスする先(“焦点”)を転換し、“お客様大事の心”に徹することを求めたのである。“社会の発展の原動力となる”という“高い志”と“使命感”に加えて、このように根底に“愛”のあるマネジメントの下においては、社員たちは、“恐怖”や“不安”から解放され、“安心”して、自分の心を開き、目的を共有し、それに向けて協力して行こうという気持ちにもなる。そして、社員の“意識レベル”も上がる。

 そして、社員の“意識レベル”が上がれば、自分の受けている“愛”を社会の人々に向けて返して行こうと思えるようになる。そこで初めて“外に向かうベクトル”が生まれてくる。即ち、そこで初めて“人々の役に立つこと”や“人々に心から喜んでもらうこと”を自ら積極的に考えて提案することができるようになり、また、そのために困難な目標にも挑戦することもできるようになるのである。そうして、成果が出て、人が喜ぶ姿を見ることで自分も喜ぶという人間の利他的な本質に目覚めると、さらに、仕事をすること自体が“愉快”でワクワクして楽しくなり、“快”の原則が働いて脳が活性化し、その潜在能力を発揮するという“好循環”が生まれてくるのである。

 これに対して、“愛のないギスギスした管理型マネジメント”の下では、表面的な“効率”を重視する結果、“失敗”も“試行錯誤”も許されないから、誰もが“失敗”を恐れて、委縮し、“失敗”をしないために、大きな目標に“挑戦”しなくなる。自分が確実に達成できる、比較的容易に手の届く範囲の目標を設定しようとするのだ。そして、過去の成功事例の焼き直しや改良に終始し、画期的な商品も生まれなくなって行く。

 また、このような“管理型マネジメント”が行き過ぎると、社員を“人財”というよりも、“コスト”とのみみなすため、企業の財務体質強化の一環として、“コスト(人件費)の削減”という点にとらわれて、その実行の結果が同時にもたらす“副作用”や“弊害”を無視し(“削除”)、あるいは、軽視し(“歪曲”)て、様々な不適切な施策が社員に対して採られる傾向がある。

 例えば、年功序列制度の下、人件費の高くなった定年前の高齢者に対して、一定額を上乗せして“早期退職”の募集を行うに際して、建前としての“希望早期退職の募集”とは裏腹に、人事異動により閑職に追いやったり、大部屋に集めてほとんど仕事を与えず放置するなど、非人道的な扱いをして、本人の自主的な辞職の申し出を待つというように、事実上ほとんど強制的に退職に追い込む、そして形式的には“任意の早期退職”を装うという企業が存在する。定年を60歳から65歳に引き上げる法改正があったときにも、予めその対象者を“一掃”しておくために、“希望早期退職制度”が“濫用”されている。

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#人間への愛にもとづく経営

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