• 宮崎 勇気

(3)“商いの原点”④-「どうすれば、人々に心から喜んでもらえるか」


(3)“商いの原点”④-「どうすれば、人々に心から喜んでもらえるか」

 さらに、松下幸之助は、“お客様に喜びを与えること”によって、自分たちも“人間としての喜び”を味わうことができるという、いわば“商売の醍醐味”とも言うべきものを強調し、次のようにも述べている。「ものを使う以上の喜びが湧くというような導きをするということになると、この喜びというのが、莫大な価値があると思う。単に物を売って料金をもらうのが、商売だというのでは、金だけ得た喜びというものは、誠に貧弱なもんだと思うんです。利益以外の喜びというもの、人間としての喜びを味わおうと。莫大な価値を与えずして人を導くということはできないと私は思うんです。」(1957年10月29日近畿有力加盟店大会)

 人間の持つ“利他的な本質”から、人々に喜びを与えるという“結果”だけでなく、それ以前のプロセス、つまり、“喜びを与えるための活動”自体に喜びを感じ、意欲と活力を生み出すのである。この点は極めて重要である。つまり「お客様に心から喜んでいただく」ために知恵と工夫を凝らしている今が楽しくて仕方がないという状態になりうるということである。(“プライミング効果”)

 実際、松下幸之助自身、「人々に心から喜んでいただくこと」を生涯自らの喜びとするとともに、人々に喜んでもらうために取り組む“仕事”(プロセス)自体が楽しくて仕方がなかったのである。そのことは、松下幸之助が、「仕事三昧」という言葉で次のように述べていることから推察される。「仕事にはまり込み、時間も忘れ、疲れも知らず熱中する。仕事から手を離すのが惜しくてならない。ただ働くことが愉快でたまらない。~仕事にわれを忘れてしまうという、いわば仕事三昧の境に入りうることは、まったく楽しいことである。」

 しかし、“人々を喜ばせる”アイデアを思いついても、それだけでは、ビジネス、即ち“事業”としては成り立たない。“利益”を上げることができなければ、“事業”あるいは“商売”とは言えないし、長続きもしない。それでは、商売人ではない。それ故、“一商人なりとの観念”の第一の意味「人々の役に立つ」と同様に、次の段階として、「収支を立てること」、つまり“人々を心から喜ばせる”そのアイデアをビジネスとして成り立つような形で具現化していくことが必要なのである。この点松下幸之助は、“商いの原点”との関係で必ずしも明確に述べているわけではないが、“一商人なりとの観念”における松下幸之助の論理から言えば、必然的にそのように考えるべきであると言えよう。

そして、実際に「収支を立てる」ためには、そのアイデアを商品やサービスという形に具現化するだけではなく、さらに知恵を絞り、創意工夫を働かせて、企画設計や材料の調達から商品が顧客に届くまでのサプライチェーンの中の一つひとつのプロセスを最大限効率化を図り、無駄なコストをできる限り削減して、利益を生み出すことが必要だ。それによって、初めて“事業”として成り立つからである。このように「人々を心から喜ばせること」「収支を立てること」を共に、しかし、同時にではなく、それらを前者と後者の順序で、段階を分けて、それぞれに意識をフォーカスし、考え抜いて、近江商人のいう“人もよし、われもよし”という顧客との間の“共存共栄”を実現する経営の姿を作り上げることができてこそ、真の“商売人”と言えよう。

このように考えてみると、この“商いの原点”という考え方は、「一商人なりとの観念を忘れず」の第一意味「人々の役に立つ」ことと「収支を立てる」こと及び第二の意味「相手の立場に立って考える」を異なる視点から言い換えたものとも言えよう。

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