• 宮崎 勇気

(3)“商いの原点”③-「どうすれば、人々に心から喜んでもらえるか」


(3)“商いの原点”-「どうすれば、人々に心から喜んでもらえるか」③

 松下幸之助は、この「どうすれば、人々に心から喜んでもらえるか」ということを建前やきれい事としてではなく、日々の事業活動での判断に際して重要な判断基準として実際に使っていたのである。この点に関して、次のようなエピソードがある。

 社員が技術的に非常に難しいある製品を苦闘の末開発した。そして、その社員が創業者の前でその製品の素晴らしさや構造の複雑さ、性能の良さなどを得意げに説明した。それをじっと聞いていた創業者が最後に一言 「ところで君、この製品を使うとお客さんは喜ぶんか?」と問いかけたのである。その技術者は全く考えてもいなかった問いに面食らった。そして、「それは・・・」と言ったまま下を向いてしまった。問題は、性能の良し悪しというよりも、その製品が人々に喜びや幸福をもたらすのかどうかという点なのである。ところが、その技術者は、「それで人々に心から喜んでもらえるのか」という“商売の原点”を忘れて、自分の能力を発揮して素晴らしい製品ができたという自己実現による自己満足に浸っていたのである。

 また、商売において喜びや感動を先に人々に与えることの大切さについて、次のように述べている。曰く、「商売とは、感動を与えることやな。喜びを与えることやな。与えずして何かを得ることはね、それは負債になることや。だから、いつも債権者にならんといかん。つまり品物を売って、便利で具合いい、と喜んでもらうことを先に考えんといかん、感動とか喜びを、絶えず先に与えるという商売でないといかんわね。」

 実は、この点に関して、江戸時代に荒廃した何百もの村を立て直した二宮金次郎(後の二宮尊徳)が説いたと言われる“たらいの水の原理”というものがある。これは、次のようなものである。たらいの水は、手前にすくい寄せようとすればするほど、奥のほうに流れ、逃げていってしまう。しかし、すくい寄せるのではなく、向こうへ押してあげることで、水は流れて結果として手前に戻ってくる。幸福を独り占めしようとすると逃げてしまうが、相手のために尽くしていると幸福は勝手にやってくる、という教えである。“富”もこれと一緒で、何とか儲けよう儲けようとするよりも、まずは相手を利することによって、結果として自分も利益を得ることができるのだという。

 儲けようとすると利益は逃げて行くというのである。先に述べたように、“儲ける”ことにとらわれるあまり、“儲け”を生み出す原因となる“人々に喜んでもらう”ということが、視界から“削除”されて見失ってしまうからである。そして、現代においても、多くの凡庸な経営者たちは、“売上”や“利益”ばかりを追い求めて、事業に失敗しているのである。

 他方、この“たらいの水の原理”を信念として事業を行い、成功している企業もある。オタフクソース株式会社の創業者佐々木清一氏は、それを“オタフクの心”と称して同社の経営理念としてきた。

 実は、“たらいの水の原理”には、一つ前提があり、“水を押すこと”は、義務感でするのではなく、また、ギブアンドテイク(give & take)という発想で“見返り”を期待してするのでもないと言う。それは、二宮金次郎の7代目の子孫、中桐万里子さんによれば、「何も持たず空っぽのたらいとして生まれた自分に、いまや豊かになみなみと水が注がれている。親や先祖が、先生が友人が、同時代を生きる同志が、、、たらいを満タンにしてくれた。ワクワクするようなその感激こそが「この水を他者にも受け取ってほしいという欲求を生み、この欲求が人を「水を押す」行動へと駆り立てるのです。もちろん、水を押すのは決して義務感による行為ではありません。しなければならないことではなく、せずにはいられないこと、といったイメージでしょう。」

 この点、松下幸之助が“一商人なりとの観念”の第三の内容とした“感謝の心、謙虚な気持ちを忘れない”の意味も正にその点にあった。まず自分に与えられていることに意識をフォーカスし、感謝することができれば、それに報いて行こうという外向きのベクトルが生まれ、「相手の立場に立って考える」こと(第二の意味)、そして、「人々の役に立つ」こと(第一の意味)を実践していく“強烈な動機”と“力”が湧いてくるからだ。正に「せずにはいられない」という状態で「水を押す」のである。

 松下幸之助のいう“商売の原点”という考え方は、洋の東西を問わず、普遍の考え方であると言える。松下幸之助が尊敬する経営者の一人である米国の自動車王ヘンリーフォードも「奉仕を主とする事業は栄る。利得を主とする事業は衰える。」と述べているからである。

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