• 宮崎 勇気

(3)“商いの原点”①-「どうすれば、人々に心から喜んでもらえるか」


(3)“商いの原点”①-「どうすれば、人々に心から喜んでもらえるか」

 松下幸之助は、“商いの原点”たる“心の持ち方”として、次のように述べている。「商いの原点は、どうしたら売れるか儲かるかではなく、どうしたら人々に心から喜んでもらえるかである。」この「どうしたら売れるか儲かるか」「どうしたら人々に心から喜んでもらえるか」という二つの“心の持ち方”の間の違いから、異なる“立ち位置”と“アプローチ”及び“効果”が生み出される。世の中では、前者の“心の持ち方”を採る企業が圧倒的に多いのであるが、松下幸之助は、この前者の“心の持ち方”を明確に否定し、後者の“心の持ち方”を採るべきこと、それが“商いの原点”であると強調しているのである。以下で、この両者の違いを分析してみたい。

 両者の“心の持ち方”は、事業活動を行うに際して“どの位置に立って”、“何を目指すのか”、従って“何に意識をフォーカスするのか”が違う。まず第一に、その“立ち位置”が違う。“自分自身あるいは自分の会社の立場”に立って物を見て、考えるのか、それとも“お客様の立場”に立って物を見て考えるのかという点が異なる。第二に、自分や自分の会社の為に売上や利益を増やすことを目指すのか、それともお客様の為にお客様が心から喜ぶことを目指すのかという“目指す方向”や“目的”が違う。

 松下幸之助が強調するのは、後者の “お客様の立場に立って”、“お客様の為に”“どうすれば心から喜んでいただけるのか”という視点で、そこに意識をフォーカスして、物を見て、そして、考え抜くことなのである。このいずれの“心の持ち方”を採るかによって、意識をフォーカスする“焦点”が異なり、それ故、脳のRASの機能によって、集められる情報(焦点化効果)とその反面として“削除”され、“盲点”となって見えなくなる情報が全く違ってくる。(この点、詳細は次の記事をご参照下さい。「人間現実の姿:“心の弱さ”②」

https://www.minamotoyori305konosuke-shintou.com/blank-4/2016/06/03/kokoro-no-yowasa2)

 まず“どうすれば売れるか、儲かるか”という“心の持ち方”は、“自社”に立ち位置をおいて、自分(自社)の為にどうすれば売上や利益が増えるかと考える、自己(自社)中心的な“心の持ち方”だ。極論すれば、お客様を“利益を搾り取る相手”と捉え、“お客様自身にとってどんな利益があるか”という視点は、関心事項以外のこととして“削除”され、“盲点”となって見えなくなってしまうのであり、正にこの点に最大の問題がある。例えば、部下の誰かがお客様の利益になることを提案したとしても、利益には直結しない無駄なコストだと“歪めて”解釈・評価し、“不要だ”と“決めつけ”てしまう。

 先の都会の喫茶店の例がそれである。利益にとらわれ、効率を求めると、小さなテーブルを狭い店内に詰め込もうとする。これで一度に多くの客を収容することができ、売上や利益が上がるように一見見える。しかし、それは机上の計算に過ぎない。顧客の立場から見れば、“居心地の良さ”という利益が失われ、リラックスすることはできないから、またその店に来たいとは思わない。

 また、先に挙げた例、即ち、“顧客満足”を方針として掲げながら、毎月の経営会議では、顧客や顧客のニーズについての報告や議論は一切なく、売上や利益の数字の確認と未達の原因、あるいは、個別の戦術や施策の議論に終始しているという例も同様である。

 その結果、“自分(自社)がよくなるためにはどうすればよいか”という“自分の為”の視点から、“自分の立ち位置に立って”、売上や利益を上げるために、“如何に商品をたくさん売りつけるか”、“顧客から如何に利益を搾り取るか”という発想に陥り、短期的で狭い視野から、見かけ上あるいは計算上売上や利益が上がるように見える商品に拘るなど、“取らぬ狸の皮算用”に終始して、その反面、より肝心なこと、つまり “人々に心から喜んでもらうこと”(=顧客満足)つまり、顧客のニーズや気持ちなどは“焦点”から外れ、“削除”され“盲点”となって見えなくなってしまうのだ。その結果、人々が求めるような商品やサービスは生まれないし、顧客の支持も得られない。

 つまり “どうすれば売れるか、儲かるか”ということに焦点を当てていくら頭を捻っても、そこからは、顧客が心から喜ぶような良い知恵もアイデアも生まれてこないだけでなく、逆に顧客の求めるものから離れて行くこととなる結果、顧客の支持を失い、製品は売れず、結局は目指す目的とは裏腹に儲からないのである。

 この点、松下幸之助は、次のように指摘している。曰く、「金というものは儲けようと思って儲かるものではないのです。」(「社員稼業」p.265)というのは、そのように解釈することができる。

Copyright © 2017 Yuki Miyazaki All rights reserved.

#商いの原点

最新記事

すべて表示

(4)“お客様大事の心に徹する”-その現代への応用⑤

松下幸之助が「経営のコツここなりと気付いた価値は百万両」と膝を叩いて社員たちに提案した“社員稼業”の考え方(自分の仕事を“一つの事業”と捉えて自分はその“経営者”だという意識で仕事を見直し、取り組むこと)を現代にどのように応用していくのか(社員に如何に“経営者の意識”を持たせるか

(4)“お客様大事の心に徹する”-その現代への応用④

時代の転換期にある現代において、事業に成功している企業はどうしているか?まず先進国では、一応モノが行き渡り、むしろ溢れる中で、顧客のニーズは主観化し、多様化し、しかも変化していく。成功している企業は、このような環境の変化に適応して、工業化社会において成功した“規格大量生産型ビジネ

  • Black Facebook Icon
  • Black Twitter Icon
  • Black Pinterest Icon
  • Black Flickr Icon
  • Black Instagram Icon

Copyright © 2016 Yuki Miyazaki  All rights reserved.

This site was designed with the
.com
website builder. Create your website today.
Start Now