• 宮崎 勇気

7.補論②困難を乗り越える経営:禍転じて福となす⑩

7.補論②困難を乗り越える経営:禍転じて福となす⑩


 第三に、『社会と共にある』ことである。松下幸之助は言う。「企業は、社会とともにある限り永遠に発展するし、そうでなくなったら、やがて衰退する。これが発展と衰退を分ける“真理”である。」(1983年2月1日松下政経塾塾報より)


 事業がうまく行かない企業に典型的に見られる特徴は、唯我独尊、我が道を行く企業か、“取らぬ狸の皮算用”で机上の計算だけで“自分のため”“自社のため”に経営をやろうとすることで、いずれにせよ、『社会と共にある』とは到底言えないような企業である。特に、不景気や困難に直面して解決の方向が見えなくなっている企業の多くは、“社会”という大きな船に乗っていない、ましてやその船を引っ張って行こうとはしていない。しかし、このような“自分(たち)のために”事業を行っている企業は、困難や障害に脆い。


 これに対して、『社会と共にある』企業は、困難や障害に強いのである。自分たちは、「社会の発展の原動力となる」あるいは“世の為人の為に役立つことをする”ために事業活動をやっているのだとの明確な認識の下、具体的な経営目標を全社で共有することによって、“使命感”“社会の公器”としての“責任感”が生まれる。人は、“世の為人の為に”と本気で(建前としてではなく)思い、“強固な信念”となったときには、目の前にどのような障害や困難が現れようとも、決して諦めなくなる。その目標の達成は、自分だけの問題ではないからである。むしろ人々の為に、実現しなければならない、あるいは、人々の為に障害や困難を克服しなければならないという“使命感”“責任感”“力”“勇気”を生み、目的実現の途上で現れる様々の障害や困難にも負けずに、それらを克服させるのである。

 

 そして、松下幸之助は、断言する。企業が発展するかどうかは、社会と共にあるかどうか次第だと。企業は、“自社の利益”だけを考えるのではなく、社会とともにあり、“社会の利益”を先に考えて、“社会の発展の原動力となるような商品”を世に生み出し続けていく限り、結果として、社会とともに発展していくものだという。自社の商品が社会の発展に役立つものである限り、人々が、その商品を“支持”し、買ってくれるからである。それは、決して“易き道”ではなく、むしろ困難の多い“荊の道”であることも多い。しかし、結局はそれが“確実な道”であり、“商売の王道”なのである。


 特に経営環境が激変し、経営の方向を見失いそうになる逆境の時にこそ、事業の目指すべき正しい方向を忘れてはならない。『社会と共にある』という言葉は『今自分たちは社会と共にあると言えるだろうか?』と自問自答させることで、そのことを困難に直面する経営者に想起させてくれるのである。


 当初より『社会と共にある』との信念の下に具体的な経営目標を全社で共有していれば、目の前の不況や困難に動じることはない。そこで動じるのは、目標の達成が経営者を初め全社で“強固な信念”となっていないからだ。目標がしっかり固定していないから、障害に目が行くのだ。松下幸之助が尊敬した米国の自動車王ヘンリー・フォードは、「一直線に目標だけを見なさい。障害が目に入らないように・・・障害が恐ろしいものに見えるのは、目標から目を離すからだ。」と述べている。


 また、先の自問自答により、自社が社会とともにあるといえない状態にあることに気づいた経営者は、直ぐに『社会と共にある』方向に経営改革を行うことによって、困難を乗り越えることができるであろう。


 同様の効果を持つ概念として、『お客様大事の心に徹する』という概念の中の『人々の役に立つ』という“商売の本質”を示す概念がある。『今自分たちの提供している商品やサービスは人々の役に立っているだろうか?』と自問自答することで、自分たちの事業活動が“商売の本質”から外れていないかということを経営者に想起させてくれるからである。


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