- 宮崎 勇気
3)松下幸之助の物の見方(4)“より明るい物の見方を選んでいく”②
3.人間大事の経営
3)松下幸之助の“選んだ”物の見方考え方
(4)“より明るい物の見方を選んでいく” ②
それではどうすればよいか?
まずは物事には必ずプラス面とマイナス面の両方の面があるものだとの“正しい認識”を持つことが前提として必要である。この点、松下幸之助は、「物事にはいい面と悪い面がある。われわれ商売してる者は、物事の一面だけ見たらあきまへんわ」(名和太郎著「松下幸之助 経営の真髄を語る」p.53)と述べている。
このように、“物事には、常にいい面と悪い面の両方がある”との前提に立って、常にその両方を見るようにするという“複眼思考”のフレームをもって、視野を拡げて、目の前の現象を見る。すると、習慣となった否定的な物の見方からマイナス面だけに焦点化し、プラス面を削除してしまうということがなくなり、プラス面にもいわば強制的に視野を拡大して目の前の現象を見ることができるようになる。
例えば「この状況の中で自分にとってプラスの要素としてどんなことがあるだろうか?」と自問自答してみる。人間の脳は、何か“質問”をされると、それに反応して考え始めるようにできている。脳は、空白を嫌い、それを埋めようとするからである。その結果、プラスの面に対していわばアンテナが立ち、プラスの要素の情報が集まってくる(“焦点化効果”)ようになる。そして、そこで初めて今まで気づかなかった別の選択肢が自分にあることがわかるようになる。ただ、それが自然にできるようになるには、“心の訓練”が必要である。
この点、松下幸之助は次のように述べている。「発想の転換ということはさかんにいわれるが、実際はなかなかむずかしい。それはみずから、自分の心をしばったり、せばめているからである。だから大事なことは、自分の心をときはなち、ひろげていくことである。そしてたとえば、今までオモテから見ていたものをウラから見、ウラを見ていたものをオモテも見てみる。そういったことをあらゆる機会にくり返していくことである。」(「指導者の条件」p.201)
もう一つの方法は、松下幸之助のいう「忙しさや慌しさにとらわれず、一息入れて、様々な見方をし(する)」ことである。
これを少し敷衍して解釈するならば、次のように説明することができよう。直ぐに物事を悲観的に見てしまうのは、過去の習慣的な物の見方にとらわれているからだと言えよう。様々な“とらわれ”を生み出すのは、いわゆる左脳である。そして、日常では、左脳が優位となっている。そこで、この左脳優位の状態を右脳優位の状態に変えることによって、“とらわれ”を取り除くことができる。そのために「一息入れる」のだ。
例えば“呼吸”と“身体”を使う。つまり、ゆっくりと深呼吸を二度三度繰り返し、呼吸を整えて、身体をリラックスさせる。さらに、瞑想をしてみる。そうすると、五感を通じた知覚機能が弱まり、入ってくる情報が減ってくると、左脳の働きが弱まり、左脳が生み出していた様々な“とらわれ”が消え、前述の“とらわれない素直な心”(私心などにとらわれず、物事をありのままに見ようとする心)を持つことができるようになる。こうして、左脳優位の状態から右脳優位の状態に移行させることができる。
“素直な心”は、“流れる水”のように「(それを持つことにより)自由自在に見方、考え方を変え、よりよく対処していくことのできる融通無碍の働きのある心である。」(「素直な心になるために」p.55括弧内は筆者による補足)「それはいってみれば、一つのことにとらわれたり、固定してしまうというようなことがなくなるからでありましょう。」(「素直な心になるために」p.55)
そこで初めて、“とらわれ”に縛られた心が解き放たれ、“固定”していた見方以外の見方に対してもオープンになることができ、「様々な見方をする」ことができるようになる。そして“より明るい物の見方”の存在にも気づくことができるようになるのである。こうして、「一息入れて様々な見方をし(する)」ことができるようになる。
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