• 宮崎 勇気

(7)自分の人生を演出し、かつ、演じる-「人生は一つの芝居のようなもの」①


3.人間大事の経営

2)人間の本質を活かす-「すべては心の持ち方次第」「自分の心を使いこなす」

(7)自分の人生を演出し、かつ、演じる-「人生は一つの芝居のようなもの」①

 松下幸之助は「人生は一つの芝居のようなものだ」として次のように述べている。曰く、「考えてみますと、現実の社会というものも、一つの芝居と見れないこともありません。そこでは、われわれ一人ひとりが演出家であり、役者であり、また同時に観客でもある。そういうかたちにおいていろいろな生きたドラマが展開しているということができましょう。この生きたドラマは・・・演出するのも演技するのも自分です。やり方しだいで、いくらでもいい芝居ができる。しかもそれを自分で鑑賞するのですから、ひとしお味わい深いものがあります。」

 これをどのように解釈すべきであろうか?

 この点、私は次のように考える。

 まず前提として重要なことは、私たち人間は、“現実”という“客観的な世界”に生きているわけではないということである。

 ここで、読者の皆さんは、いつも目の前に“現実”を見ているではないかと言うかもしれない。しかし、誤解を恐れずに言えば、それは“錯覚”に過ぎない。

 第一に、私たちは、そもそも現実の世界をそのまま直接把握することができないからである。私たちに物が見えるのは、物に反射した光が網膜上の細胞を刺激し、その刺激が電気的な信号として、視神経を介して、脳の視覚野に伝えられ、その情報が、輪郭や色や模様に解読され、認識される。つまり、あくまで間接的に認識しているに過ぎないのだ。視覚だけではない。五感と言われる知覚機能のうち、臭覚を除く、他の機能、つまり、聴覚、味覚、触覚も同様だ。

 第二に、視覚については、視野角の限界、また、聴覚については、人間の感知できる周波数の限界など知覚上の“物理的制約”がある。

 さらに、第三に、これまで繰り返し述べてきた人間の脳の特徴である“削除”“歪曲”“一般化”というメカニズムが知覚のプロセスにおいて無意識のレベルで働くことから生じる制約がある。即ち、自分の信念(自分が正しいと思うこと)や価値観(自分が重要だと思うこと)を核として、物事を見るため、現実世界の一部だけを切り取って(“削除”)、自分の信念や価値観から都合のいいように歪めて解釈し(“歪曲”)、決めつける(“一般化”)のである。

 また、第四に、人間の脳は、目の前のモノを見るときに、隠れて見えない部分や詳細部分などを“過去の記憶”によって補完する場合があると言われるが、“過去の現実”を引き出す際には、人間の“記憶の限界”という制約があるだけでなく、それ自体もまた記憶として保存される段階及び引き出そうとする現時点でも、やはり削除・歪曲・一般化のメカニズムが働いているのである。こうして、自分の過去の不都合な真実を消去し、美化してしまうということは、よくあることだ。また、それは、物の考え方についても同様である。自分が過去の経験から、“これはこういうものだ”と一般化すると、そのパターンに類似する現象や考え方に接すると、“あれもそのパターンだ”と決めつけるのだ。

 つまり、私たちの認識する“現実の世界”は、これらの様々な制約の下に形成された、“現実の世界”とは似て非なるもの、いわば独自の“仮想の世界”だと言っても過言ではない。私たち人間は、このようにして、独自の“世界モデル”を心の内面に創り上げ(“内部表現”)、それに強い臨場感を持って、“現実の世界”だと信じ込んでいるのだ。その内部表現上の“仮想の世界”こそが、その人にとっての“現実の世界”なのであって、それ以外には実は存在しない。

 そして、その“内部表現”の中に自ら創り上げた“仮想の世界”(世界モデル)は、すべて“情報”からできている。とすれば、情報は“書き換える”ことができる。

 実際、神経言語プログラミング(NLP)の手法を使うことで、この世界モデルを矯正することができる。NLPにはそのための様々な手法がある。例えば、“削除”“歪曲”“一般化”のメカニズムによって、部分的で、歪められ、決めつけられた世界観を持つ人に対して、様々な質問(“メタモデル質問”と呼ばれる)をしていくことで、相手の削除された情報を復活させたり、歪曲した見方を生み出している“思い込み(信念)”に気づかせたり、一般化し決めつけていることにも例外のあることに気づかせたりすることができる。

 NLPの手法によって、うつ病などの精神的な疾患から劇的に回復させた例は多い。それは、いわばマイナス方向に行き過ぎた世界モデルを通常の一般的なものに戻しているのである。

 そうであるならば、これを応用すれば、さらにプラス方向に世界モデルを修正していくことも可能である。元々情報から成る“仮想の世界”ならば、その時々の状況に応じて自分にとって最も役立つように、書き換えればよい。あのシェイクスピアが言ったように、外の世界の出来事や現象自体には、元々それ“固有の意味”はない。すべては、“中立”なのである。その“意味”を決めるのは、自分の“心の持ち方”、言い換えれば自分自身の“価値観”であり、“信念”である。それらを変えることができれば、物の見方や考え方をも変えることができる。それによって、“気分”が変わり、“意欲”や“力”も湧いてくる。人間には、このように“心の持ち方”を選択する自由と能力があるということを松下幸之助は、自身の体験から感得したのである。

 その結果、例えば困難や障害という目の前の現象の捉え方が“絶望”から“発展への転機”というように前向きかつ積極的に変わる。それによって、“人間の心の弱さ”を克服することも可能となる。

 曰く、「困難な情勢に直面すると、人間というものはともすれば、あれこれ不安を感じたり心配したりします。(嘆いたり、誰が悪いと憤慨しても)何も生まれてきません。心も委縮してしまい、困難に対処していくための知恵もでてきにくいでしょう。ですから、私は、今日のむずかしい世の中を一つの生きた芝居と見、自分はその中の主役であると考えたいのです。そうすれば、激動の今日の社会は、最も演技のしがいのある時代、いいかえれば、一番生きがいのある、おもしろい時代だということにもなってきます。」(「経営のコツここなりと気づいた価値は百万両」pp.112-115)

 さらに、“強く願う”ことで“信念の力”を活用することによって、“目標を実現する”ことも可能となる。松下幸之助は、「強く願う」ことが“成功の秘訣”だと述べている。

“素直な心”になって“為すべきこと”がわかったら、“その目標が実現された未来の姿”を“強く願う”。そのイメージを繰り返し自分にインプットし(“ビジュアライゼーション”)、視覚だけでなく、五感のすべてを使ってありありと“臨場感”を持って強く感じることができれば、自分の“強固な信念”のレベルにまで高めることができる。先に述べたように、人間にとって、本当の意味での“現実”は存在しない。とすれば、複数の“仮想の世界”の中で最も“臨場感”の感じられるものが、その人にとっての“現実”となり、また、自分らしい、居心地のいい領域である“コンフォートゾーン”となる。

 “将来の目標を実現している姿”を“強固な信念”にまで高めることができれば、それがその人にとって自分の内側で認識する“現実”であり、コンフォートゾ-ンとなるから、それと異なる“現実”を自分の外側に認識すると、違和感(認知的不協和)を覚えて、自動的にそのギャップを埋め、目標の実現に向けて矯正しつつ、考えて行動するようになる。

 “既に目標を実現した未来の姿”がコンフォートゾーンとなっているから、目標実現に向けた活動をしていること自体が楽しくワクワクする(“プライミングプライミング効果”)。脳が活性化し、ドーパミンが分泌され、創造力と潜在能力が発揮される。

 こうして、因果の流れが逆転する。過去から現在、未来へ流れていた因果が、未来の目標を実現した姿が信念により固定され、それが原因となって、現在の自分を変えていくのである。

 また、その目標に意識をフォーカスすることによって、焦点化効果を生み、必要な情報が集まってきて、目標実現の手段や方法も後から見えてくる。

 このような“心の持ち方”をすることが、目標の実現につながる。

 そのためには自分の心を鍛えて、“とらわれ”から抜け出し、最も役に立つ“心の持ち方”を自在に選べるように“自分の心を使いこなすこと”が必要である。それができるようになれば、人生は自由自在となる。自分の描いたシナリオに従って、自分という主人公を演じる。そして、演じているうちに、その役に成り切っていく。「人生は一つの芝居のようなものだ」という松下幸之助の先の言葉は、そのような解釈もできるのではなかろうか。

 通常私たちは、“現状”に強い臨場感を抱いているため、“未来の目標を実現した姿”にそれ以上の“臨場感”を持つことで、コンフォートゾーンを現状から未来へ移すことは、実は容易ではない。移そうとしたときに、現状のコンフォートゾーンからのホメオスタシスフィードバックにより、強烈に現状に引き戻されるからである。それは、自分を変えることへの“抵抗”として現れる。

 しかし、人生は“一つの生きた芝居”であり、自分はその“主人公”だと考え、あくまでこれは“芝居の上での演技”なのだと思うことで、顕在意識の上の“現実”の重みや深刻さを回避しつつ、また、自分を変えることへのホメオスタシスの“抵抗”をかわしつつ、自分の“心の持ち方”を比較的自由に変えてみることができるであろう。そして、その役を繰り返し演じているうちに、その役にはまって行く。つまり、繰り返し潜在意識にインプットされることにより、“その役”に慣れて行くと、潜在意識のレベルでは、その“慣れ”ということによって、それが自分の正しい“自己イメージ”だと信じ、そのような“自己イメージ”が新たに形成されていく、こうして臨場感が“現状”から“その役”に移って行くとともに、自分自身のコンフォートゾーンも“現状”から自分の作った“シナリオの役”へと移って行くのである。

 この松下幸之助の「人生を一つの生きた芝居」とみるという提案は、本人がそれを意図していたかどうかは、必ずしも定かではないが、顕在意識の“変化への抵抗”をうまくかわしながら、潜在意識のレベルのコンフォートゾーンを“未来の成功している自分の姿”に移行させるための実に巧妙な方法と言えよう。

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#自分の人生を演出しかつ演じる

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