• 宮崎 勇気

(5)“削除”“歪曲”“一般化”のメカニズムを矯正し、さらに、逆に活用する ③


3.人間大事の経営

2)人間の本質を活かす-「すべては心の持ち方次第」「自分の心を使いこなす」

(5)“削除”“歪曲”“一般化”のメカニズムを矯正し、さらに、逆に活用する ③

 第三に、“一般化”のメカニズムの活用である。「できないではできない」と否定的な方向へ一般化することを排除する一方、肯定的な方向に向けて一般化するのである。その上で、その一般化した考え方を“核”として、さらに“削除”“歪曲”“一般化”のメカニズムを働かせるのである。松下幸之助が提示する様々な経営哲学上の肯定的かつ積極的な概念は、その例である。以下いくつかの例で具体的に考える。

 第一に、“必ず成功すると考えること”という概念がある。

 客観的に見れば、必ずしも常にそれが正しいとは言えない。実際には事業で失敗することもあるからである。むしろ“勝負は時の運”というのが世の中の人びとの感じる現実であろう。

 しかし、松下幸之助は“必ず成功すると考えること”を求めた。特に経営者やリーダーたる者は、そのように考えなければならないというのだ。

 先に述べたように“勝負は時の運”という考えでは、勝つか負けるかはわからないから、勝利への“疑い”や負けることへの“不安”や“恐れ”が出てきて、“集中”することができず、力を100%発揮することができない。

 そこで、松下幸之助は、次のように考える。

 まず前提として“社会は限りなく生成発展していくものだ”という“生成発展の原理”を踏まえて、この「必ず成功すると考えること」というフレームワークを通して見ることによって、“生成発展していくものだ”ということと“必ず成功する”という肯定的な方向に二重に“一般化”し、それを“強固な信念”となるまで自分に言い聞かせるのだ。“必ず成功する”との“信念”が確立すれば、そこに成功への“疑い”が入り込む余地はない。そうすることによって、失敗への“不安”や“恐れ”は払拭され、目指す目標の実現に向けて“集中”することができ、その持てる力を100%発揮できるようになるのである。

 また、目の前に成功を妨げる“困難”や“障害”が現れても、“将来の確実な成功の姿”が“信念”として“固定”されているから、そこから振り返って眺めれば、それらは“成功へ向かうプロセス”上の“課題”あるいはむしろ“転機”であるといわば“歪曲”して解釈し、そうだと決めつける(“一般化”する)ことができるのである。このようにして、肯定的な方向で“一般化”のメカニズムを逆に活用するのである。もちろん、“困難”や“障害”に直面している状況では、それは容易ではない。それ故、自分の心を一旦ニュートラルな所に置き(“とらわれない素直な心”)、それを経由することで、ネガティブなとらわれから抜け出して、視野を拡げ、上記のような肯定的な解釈見出して、自分に言い聞かせるのである。

 曰く、「皆さんは、物事を、時々刻々に起こる出来事をどのように見ておられるでしょうか。例えば、難しい事態に直面したとき、自分の成長のための好機と考えているでしょうか。~中略~これから~様々なことが起こってくるときに、忙しさや慌しさに囚われず、一息入れて、様々な見方をし、より明るい物の見方を選んでいきたいものだと思うのです。」

 第二に、“日に新た”という概念である。

 人は、一度成功すると、保守的になる。成功が油断を生み、傲慢となる。環境が変わり、その成功のモデルがもはや通用しなくなっていても、自己変革し続けることができない。「現状をよしとして改めるべきをも改めようとせず」いわゆる“固定渋滞”して、「そういう状況のままに推移していく」ことがあると松下幸之助は言う。“成功した現状”を「よしとして」、それが居心地のいいコンフォートゾーンとなり、そのとらわれた“現状”を核として、“削除”と“歪曲”“一般化”のメカニズムが働くため、そこに留まろうとする。そこから外に出て現状を変えようとはしなくなり、また、自ら変わることにも抵抗するようになるのだ。

 そのような“安定”を求め、“変化”を嫌う人間の保守的な傾向を打ち破り、限りなく進化していくために、松下幸之助は、“素直な心”“ことごとく生成発展と考えること”“日に新た”という積極的な“心の持ち方”を提示し、それらを“一般化”すること求めた。

 まず、“素直な心”になって、“現状”への“とらわれ”から脱し、“限りなき生成発展”というフレームワークを通して見ることで、“発展”というものが終わりのないものであることに改めて気づき、現状の“固定渋滞”という自身の姿に気づく。そして、“日に新た”という“自己革新”を“一般化”したフレームワークは、さらなる生成発展に向けて、自分自身が日に新たに変わっていかなければならないということを気づかせるのである。その結果、一度成功しても、“傲慢”になったり、“もうこれでよい”と“固定渋滞”したり、あるいは、“油断”したりすることなく、限りなく生成発展を続けて行くことができるのだ。

肯定的な方向での“一般化”の逆活用である。新製品を誇らしげに説明した技術社員に対して、松下幸之助は、「そうか、ようやってくれた。明日からはこの商品に勝つ新しい商品を直ぐに開発してくれ。」と求めた。

 第三に、“失敗の原因はわれにあり”という概念である。

 失敗に学び、あるいは、経営環境の変化に適応して行くために必要な“自己変革”をして行くために、“失敗の原因はわれにあり”“日に新た”という“心の持ち方”を提示し、それらを“一般化”することを逆活用する。

 事業に失敗し、あるいは、経営環境の変化に対応できず、経営に大きな影響が出た場合、経営者も人間であるから、自分を守るために、うまく行かない原因を“外”に求め、“他人”や“環境”が悪いと批判し、自分は、その“被害者”であって悪くないし、変わる必要もないと考えがちである。しかし、それでは失敗から学ぶことはできないし、また、いつまでも環境の変化に適応できず、生き残れない。

 そこで、松下幸之助は、まず“素直な心”になって、現実を直視することを求める。そうして客観的かつ冷静に周囲の状況を眺めれば、経営環境に“変化”が起こっていることやその変化が事業に与える影響を正しく捉えることができるようになり、このままでは生き残れないということに気づく。

 その上で、自分は“被害者”で悪くないと自分を守り、原因を“外”に持って行きがちな意識と思考を“失敗の原因はわれにあり”とのフレームを活用し“一般化”して、その原因は常に100%例外なく自分自身にあるのだと180度転換させ、自分自身の内側に向けるのである。そこで初めて自分の中にある“原因”を見出すことができるのである。

 また、“日に新た”という“自己革新”を“一般化”したフレームワークから、自分自身が変わらなければ、環境の変化に適応することができず、生き残れないのだということもわかってくる。こうして、自分自身の中にある“失敗の原因”を見出して、そこに手を打って行くことによって、失敗に学び、自分自身を変えて、環境の変化に適応していくことができるようになるのだ。

 ここで一つ確認しておくべきことがある。上に述べた松下幸之助の“一般化”の考え方に対して、現実は必ずしもそうではないではないから正しくない、あるいは、強引過ぎるとの批判を述べる方がいる。上の例では、常に成功するとは限らないし、常に変革し続けなければならないとは限らない、失敗の原因も外にあると言える場合もある、というわけである。

 しかし、注意すべきことは、ここで私たちは“何が真実か”を探求する“科学”をしているわけではない。“事業の経営”を成功させるためにどのような考え方を採ることがより有益であるかということがここでのテーマであり、目的なのである。とすれば、“真実”を求めることよりも、“経営に最も役立つ考え方は何か”という観点から考えるべきである。

 松下幸之助は、その時々の状況に最も相応しい、最も適切な“心の持ち方”を“選択”し、“心弱き”人間を適切な“心の持ち方”へ、さらには“適切な物の見方や物の考え方”へと導いて行こうとしているのである。ここでの松下幸之助の考え方は、極めて実際的かつ実利的である。

 まず経営に役立ち、実際に効果がありそうだと思われる考え方を考え出して、そのような“考え方”が荒唐無稽なものではなく、“一応成り立つかどうか”ということを検証する。一応成り立つことが検証できれば、常にそのように考えたとき(“一般化”する)の効果が通常の考え方によった場合の効果に比べて優れているということを確認する。その点が確認できれば、後は自分に何度も繰り返し言い聞かせて、自分の“強固な信念”にまで高め、フレームとして活用するのである。また、それを社員にも求めたのである。

 これらの考え方は、一応成り立つことが確認できればそれでよく、もちろん“例外”はあってもよいのである。現実には100%常にそうだと言えるわけではないことは百も承知の上で、“例外なく常にそうだ”と考えた方がより良い結果が生まれるではないかという松下幸之助の極めて“実践的な主張”なのである。何が“核”となるか、また、どの“方向”に働くかによっては、“人間の弱み”ともなりうる“一般化”のメカニズムを逆に活用した松下幸之助のこのような実際的かつ実利的な考え方は、次の言葉から伺える。

“必ず成功すると考えること”について、「成功を確信するというても、うまくいかん場合もあるやろう。そやけどな、成功すると思わなかったら、成功するもんも成功せんのや。」これは肯定的な方向に向けた一般化である。また、“失敗の原因はわれにあり”との考えについて、「うまくいかない行き詰まりの原因というものは、外部なりいろいろの事情はあるにしても、そのほとんど100%、まあ少し割引くとしても95%までは自分にある。」(「経営のコツここなりと気づいた価値は百万両」p.73)これは、いわば中立的な方向で“一般化”を逆に活用しようとするものである。そして、否定的、消極的な方向での一般化は徹底して排除するのである。

Copyright © 2016 Yuki Miyazaki All rights reserved.

#削除歪曲一般化のメカニズムを矯正しさらに逆に活用する

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