• 宮崎 勇気

(4) 強く願う ⑤


3.人間大事の経営

2)人間の本質を活かす-「すべては心の持ち方次第」「自分の心を使いこなす」

(4)“強く願う(強固な信念になるまで)”⑤

 しかし、実はこの“強く願う”こと、つまり、潜在意識のレベルに“信念”という新しい回路を形成させるためには、極端に言えば、顕在意識が同意・納得していなくとも、“信念”とすることが可能である。そのための方法としては、アファメーションとビジュアライゼーション(映像化)の二つがある。そして、これらの方法は、コンフォートゾーンを“現状”から“既に目標を実現している将来”に移行させるため、その将来の姿に“強い臨場感”を持つための方法でもある。

 前者のアファメーションとは、その情報を繰り返し自分に言い聞かせ、脳にインプットすることである。人の潜在意識は、その言葉の内容の“真否”や“正誤”を“判断”することなく、繰り返しインプットされたことを“真実”と捉えるようになると言われる。つまり、あることを繰り返しインプットすることによって、その内容の“真否”や“正誤”如何に拘わらず、それはその人の“疑い”の余地のない“信念”(正しいと信じること)となるのである。この“潜在意識は真否を判断しない”という点は、極めて重要だ。

 この点、東京大学大学院薬学系研究科で脳科学の研究をする池谷裕二教授は、高校生に対する話の中で次のような重要な指摘をしている。視野の上下がひっくり返って見える逆さメガネをかけると、めまいがしたり、乗り物酔いのような症状になって気持ち悪くなったりするが、数日か1ヶ月もすれば全く問題なく日常生活が送れるようになると言う。しかも、私たち人間の目にはレンズがあり、そのレンズを通して屈折した光が眼底の網膜に対象物の像を結ぶのであるが、虫メガネで遠くを見るときのように、網膜には“倒立した対象物の像”が映るのである。つまり、私たちは、常に上下がひっくり返った世界を見ている。そして、逆さメガネをかけるということは、目のレンズを矯正して、むしろ正しい向きに修正することを意味する。そして、曰く「僕らに今見えている世界の「正しさ」って、一体何なんだろう?何が正しいのか、何が間違っているのかなんて、結局、脳にはもともとそんな基準なんてないんだよ。~僕らにとって「正しい」という感覚を生み出すのは、単に「どれだけその世界に長くいたか」というだけのことなんだ。つまり、僕らはいつも、妙な癖を持ったこの目で世界を眺めて、そして、その歪められた世界に長く住んできたから、もはや今となってはこれが当たり前の世界で、だから、これが自分では「正しい」と思っている。過去の「記憶」が正しさを決めている。この意味で言えば、「正しい」か「間違っている」かという基準は、「どれだけそれに慣れているか」という基準に置き換えてもよい。つまり、僕らの「記憶」を形成するのに要した時間に依存する。」(「単純な脳、複雑な「私」」池谷裕二著pp.118-122)つまり、“繰り返し、自分に言い聞かせること”によって、情報は潜在意識のレベルに達する。

 実は、松下幸之助自身、この方法をよく活用していた。曰く、「人間は頼りないものである。いかに強い決意をしても、時間がたてばやがてそれが弱まってくる。だからそれを防ぐためには、常に自分自身に言い聞かせる。自分に対する説得、戒めを続けなければならない。」(「松下幸之助一日一話」p.184)また、「自分は運が強いと自分に言い聞かせること」が重要だとして、次のように述べている。曰く、「本当は強いか弱いかわからない。しかし、それを強いと考える。自分自身を説得して、強いと信じさせるのである。そういうことが、私は非常に大事ではないかと思う。私自身そう信じてきたのである。」(「人を活かす経営」p.155)この言葉に、松下幸之助の言う“強く願う”ことの本質が現れている。本当はどちらかわからないことでも、自分にとって最も役に立つ考え方を選び、それを信じる、自分を説得し、何度も何度も自分に言い聞かせ、さらに人前で宣言して、自分で自分を励まし、“強固な信念”とするのである。

 曰く、「私はよく若い人たちに、信念をもてとか使命感をもって仕事をせよとか言うのであるが、私自身どうかというと、別に人よりも強い信念や使命感を常にもっているわけではない。むしろ、ともすればくじけそうになるし、またときに煩悶もはげしいものがある。しかし、そういう弱いといえば弱い自分ではあるが、また心をとり直し、勇気をふるい起こして若い人たちにも言うのである。そしてそのことによって、私自身も、その信念を自分のものとしてより強固にしていっているといえる。信念とか使命感といったものは、終始一貫して持ち続けることはなかなかむずかしいものである。たえず自分自身をはげましていなければならない。」(「思うまま」p.22)そして、これが、松下幸之助自身が実践していた人間の弱い心に打ち勝つ方法の一つだったのである。

 また、社員に対しても、大事なことはくり返し訴えるべきだと強調する。曰く、「大切なこと、相手に覚えてもらいたいことは、何度もくり返して言う。二度でも三度でも、五へんでも十ぺんでも言う。そうすれば、いやでも頭に入る。覚えることになる。」(「人を活かす経営」pp.172-173)

 この方法を具体的に実践した事例として、日本電産株式会社の永守重信社長の面白いエピソードがある。曰く、「日本電産を創業してしばらくは、技術的には非常に難しく他社がやらない試作品づくりのような仕事が大半でした。~技術者を集めて「出来そうか」と問いかけるものの、当然「出来ます」という返事は返ってきませんでした。そこで私は技術者を並ばせて、「これから一緒に、出来る、出来る、出来る、と百回言おう」と言い渡し、彼らが「出来そうな気持ちになってきました」と言うまで、二百回、三百回、五百回と繰り返したのです。こうしてわが社は新商品を次々に世の中に送り出していきました。ウソのような本当の話です。」(「情熱・熱意・執念の経営」永守重信著p.31)

 次に、後者のビジュアライゼーション(映像化)とは、“自分が目標を達成している”場面を視覚を始めとする五感をフルに使い、目の前の“現実”以上の臨場感を持って映像化することである。その際、外側から客観的に映画やテレビの映像を見るように見る(客観体験 Dessotiate )のではなく、自分がその目標を達成している場面の中にいて、実際に何かをしているのを五感で感じる(主観体験 Assotiate )ことを繰り返し行うことによって、目の前に実際に見えている“現実”の映像の臨場感を打ち破り、想像した映像の方により強い臨場感を感じるようになる。この点、松下幸之助は、「心に描かないものは絶対に生まれない。しかし、心に描いたものは、理にかなってさえいれば、やり方いかんで可能になる。」と述べており、このビジュアライゼーションを活用していたのではないかと推測される。

 松下幸之助の経営哲学から多くを学び、最近では経営破綻した日本航空をみごとに再生させた京セラの名誉会長稲盛和夫氏は、このビジュアライゼーションについて、より明確に述べている。曰く、「そうして、すみずみまで明瞭にイメージできたことは間違いなく成就するのです。すなわち、見えるものはできるし、見えないものはできない。したがって、こうありたいと願ったなら、あとはすさまじいばかりの強さでその思いを凝縮して、強烈な願望へと高め、成功のイメージが克明に目の前に見えるところまでもっていくことが大切になってきます。」(稲盛和夫著「生き方」p.50)

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#強く願う

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