• 宮崎 勇気

(4) “強く願う” ③


3.人間大事の経営

2)人間の本質を活かす-「すべては心の持ち方次第」「自分の心を使いこなす」

(4)“強く願う(強固な信念となるまで)” ③

 また、この“強く願う”ことには、それ以外にも重要な効果がある。

 松下幸之助は、特に経営者に対しては、「将来から現在を考える」ことを強調した。“信念”に“固定”された“目標が実現した未来の姿”をいわば“てこ”として、そこから“現状”を振り返り、“どうすればそれを実現することができるか”と自問する。このように心の立ち位置を“現在”から“将来”に移行することによって、第一に、将来の目標を実現した姿と現在の姿とのギャップ、つまり、解決すべき“課題”が明確になり、また、そのギャップをどのように埋めていけばよいのか、つまり、目標達成に向けた“道筋”が見えてくるという効果がある。

 また、第二にその目標を“強く願う”ことで、その実現について“疑い”の余地のない“強固な信念”のレベルに到達することによる“集中”の効果がある。

 人間の心は、仏教で“一念三千”と言われるように一日の内でも実にたくさんの考えや感情が次から次へと泉が湧き出るように出てくるため、なかなか一つのことに集中することが容易ではない。様々な外からの刺激や内側から湧き上がってくる心の動きに翻弄されるというのがむしろ通常であると言ってよい。また、人間は、私心、即ち自分の利害や感情などにとらわれ易く、そのものの見方や判断は、自分の利害等を“核”として「削除」「歪曲」「一般化」され、それらが副作用を起こすことは前述した通りである。さらに、人間は情勢に流され易く、調子が良ければ有頂天になり、悪ければ意気消沈し易い。

 この点、目標が“強固な信念”のレベルに到達することにより、その“目標の実現”に向けて意識がフォーカスされる反面、それ以外の情報を“削除”してしまうため、目標以外の余計なことに注意が分散されることがなくなり、この点からも、目的の実現に向けて意識と力が“集中”していく。このように、松下幸之助が“成功の秘訣”として挙げた“強く願うこと”には、このような人間の心の不安定さを“願うこと”に“固定”させることによって、意識と力の分散を防ぎ、“願い”の実現に向かって、それらを集中させるという効果もある。

 第三に、その願い(目標)が“信念”のレベルに到達することによって、その実現に向けた“情熱”が生まれる。そして、松下幸之助の述べる通り、その“情熱”は、“力”と“常識をも打ち破る知恵”を生む。松下幸之助は、「何としても二階に上がりたい、どうしても二階に上がろう。この熱意がハシゴを思いつかせ、階段を作りあげる。上がっても上がらなくてもと考えている人の頭からは、ハシゴは生まれない。」「普通の努力では、チャンスをチャンスと見極められない。熱心の上に熱心であることが見極める眼を開く。」と述べている。

 第四に、“既に目標を実現した未来の姿”が信念のレベルにあるということは、“実現した未来”を既に見て、そこから“現状”を見るため、その実現を固く信じて“疑い”や“恐れ”、“不安”の余地がないということである。このことは、特に目標を実現していくプロセスにおいて、様々な困難や障害に直面しても、簡単に“諦める”ということがなくなり、「成功するまで諦めない」粘り強さを発揮させるのである。松下幸之助は、次のように述べている。曰く、「社会生活は日々これ戦い、日々これ苦難。その時に心が動揺するかしないかは、信念の有無で決まる。

 これに対して、“現状”から未来の目標を見上げると、その高さに圧倒され、現在の実力では無理だとも思えてくる。すると、忽ち“不安”や“恐れ”、“疑い”に苛まれ、“集中”することができず、持てる力を十分に発揮することができなくなる。翻って考えれば、少々の障害や困難に遭遇して、簡単に目的を諦めてしまうのは、それだけ当初の目的の持ち方(決意)が脆弱であり、“強固な信念”と言えるレベルに達していなかったからだとも言える。

 第五に、“その目標の実現”を強く願い、“強固な信念”とすることで、意識と注意がその目標の実現にフォーカスされることによって、“その目標の実現”に関連する情報が、いわば地引網のようにどんどん集まってくる(“焦点化”)結果、“その目標を達成するための手段や方法”が後から浮かんでくるという実践的な効果がある。松下幸之助が「実現への願いを強固な信念にまで高めるならば、そのための手段、方法は、必ず考え出されてくる」と述べているのは、このことだと考えられる。

 この点、私たちは、通常目標を立てるときに、それを達成できるかどうか、できるなら、どんな方法でできるかということを“先回り”して考えて、この目標ならできそうだという感触を得られたときに、その目標を立てることを決め、反対にその目標ができそうになければ、それを目標として立てることを諦めるということが多いのではないだろうか。

 しかし、松下幸之助は「まず思いありき」であり、順序が逆だというのである。まず“願い”なり“思い”があって、次にそれを“強く願う”ことによって、その手段や方法が後から出てくるというのだ。

 なぜそのように言えるのであろうか?

 この点について、現代の脳科学の観点から次のように説明することができる。前述の通り、人間は、現実世界の膨大な情報の一部を“選択”して認識している。人間の脳には、外部からの情報をふるいにかけるフィルター機能(RAS:Raticular Activating System 網様賦活系)があり、取り入れる情報を処理可能な量に絞り込んでいる。その取り込む基準は「その時点で自分にとって重要と考える情報」である。そして、何が重要かを決めるのは、その人の“心の持ち方”、即ち“価値観(重要だと思うこと)”や“信念(正しいと思うこと)”である。

 例えば、何か“目的”を持ったり、何かをやろうと“決意”したりした場合、それを繰り返し「強く願い(う)」“強固な信念”のレベルに達すると、それらの“目的”や“決意”についていわばアンテナが立ち、そこで初めてRASのフィルター機能が働いて、それらに関連する情報が、選別され、いわば地引網のように集められて、認識される(“焦点化効果”)こととなり、その結果、“その目的を実現するための手段や方法”が後からわかる、あるいはその実現のためのヒントやチャンスの情報も見逃さず、認識することができるので、直ちに行動に移すことによって、実現できるようになるのだ。

 例えば、インターネット上には、膨大な情報が存在するが、そのままでは何も見えない。自分の調べたいことを特定して、関連するキーワードを入れ、検索ボタンを押したときに初めて、そのテーマに関連する膨大な情報が集まってくる。これと同じである。

 この“強く願う”ことにより必要な情報を集めてくる“焦点化効果”も、願望の実現を促進する重要な要素の一つであると言えよう。逆に言えば、“強固な信念”のレベルに達しない“一応の願い(漠然とした願望)”のレベルでは、アンテナは立たず、必要な情報が集まらないから、手段や方法が浮かんでくることもなく、目の前にヒントやチャンスの情報があっても見逃してしまう。益してや何か別のことに“とらわれ”ていたならば、逆にそれらの情報は“削除”され、“盲点”となって気づかないであろう。

Copyright © 2016 Yuki Miyazaki All rights reserved.

#強く願う

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