• 宮崎 勇気

(4) 強く願う ①


3.人間大事の経営

2)人間の本質を活かす-「すべては心の持ち方次第」「自分の心を使いこなす」

(4)“強く願う(強固な信念となるまで)” ①

 松下幸之助は、成功の秘訣を尋ねられたときに、“強く願うこと”、そしてその実現への願いを“強固な信念”にまで高めることだと答えることがあった。

 曰く、「私は、何事によらず、それを成し遂げるためにもっとも大切なことは、まずそのことを強く願うというか、心に期することだと思うのです。なんとしてもこれを成し遂げたい、成し遂げなければならないという強い思い、願いがあれば、事はもう半ばなったといってもいい。そういうものがあれば、そのための手段、方法は、必ず考え出されてくると思います。」(「経営のコツここなりと気づいた価値は百万両」p.69)

 「皆さんが、こういうことをやりたいという思いやな、その思いは九八パーセント成就する。しかし、思わないことは成就しない。それは無理や。思ったことでもなかなかできないことが多いんやから。けれども、必ずこれはやってみせる、やれるにちがいないという信念があったら、ほとんどかなうということや。思いは必ずかなう。それは、ぼくの人生をふり返ってみて、皆さんに力強く申しあげることができる。ぼくはだいたい自分の思ったことは達成できてきたわけや。

 一度や二度決意したくらいでは、不十分であり、何度も何度も“繰り返し”自分に言い聞かせて、“強固な信念”のレベルにまで高めることが大切だと松下幸之助は言う。

 また、松下幸之助は、経営や商売の“やり方”は無限にあり、“やり方”によってその成果も異なるのは当然であるが、「ほんとうにことの成否をきめるのは、もう少しほかのところにあるのではないか」として、次のように述べている。

 曰く、「それは、そのことをやろう、やりぬこうという決意がどれほどつよいかということだと思います。ぜひともこの事業をやりたい、世のため人のため、なんとしてもやらなくてはいけない、そういう決意が非常につよいものでなくてはならないということです。もし、そのようなつよい決意といいますか、極端にいえばそのことに命をかけるというような気概を持たずして、ことに当たったとしても、それは往々にして失敗に終わってしまうと思うのです。・・・会社なり商店の頂点に立つ人が、そのこと(筆者注:この商売をもっと立派なものにし、さらに立派な従業員を育て、そしてより多くの人びとに喜んでもらえるような仕事をしていきたい)をみずからつよく念願し、かたく決意することが肝心です。」(「経営心得帖」pp.106-107)

 “経営者自身の強い決意”こそが、その“やり方”など他の何よりも大切だというのである。後に述べるように、その決意の程度によって、その後の経営者自身の意欲と考え方、行動が全く違ってくるからである。

 例えば、ソフトバンク株式会社の創業者である孫正義社長は、小さい頃から“大ぼら吹き”と言われてきたそうである。言うことが、あまりにも大きいからである。ところが、孫氏は、その後その“大ぼら”を悉く実現してきた。小学生の頃、「球団の一つも持たないかん」と言い、30数年後、ソフトバンク球団を持つに至った。また、NTTの売上や利益の十分の一に満たなかった頃に「10年以内にNTTを抜く!」と公言して、それを実現した。公言することで、自分を追い込んで、必至になって考え、実現してきたと言う。孫氏流の“決意”の程度を“強固な信念”にまで高める方法だと言えよう。

 最近では孫正義氏は、一旦発表した自身の退任宣言を撤回し、英国の半導体大手のアーム・ホールディングスを買収した。アームは、スマートフォンやタブレット端末などの頭脳と言える「CPU(中央処理演算装置」を設計開発し販売しており、スマートフォン向けでは世界で95%以上の市場シェアを誇る。

 退任撤回の理由として、孫正義氏は、次のように語っている。「20年とか30年という時間軸で、人間が生み出した人工知能による『超知性』が、人間の知的能力をはるかに超えていく『シンギュラリティー』は必ずやってくると信じている。多くの人は恐れを抱くと思うんですけれども、僕は、それは人間の幸せと『ハーモナイズ』できると、そう思っているんですよ。自然災害の予知や不治の病の解決など、超知性は、人類の不幸な部分を減らすことができるわけです。僕はそういう社会が来ることを望んでいるし、自然とそうなっていく。その時、必ず悪い意図を持って技術の進化を迎え入れようとする人も出てきてしまう。けれども我々は、社会を幸せなものにしようとする人を一人でも多く増やすために、良き心を持った側として貢献していきたいと思っているんですね。その手立てがアームなんです。20年という単位で見れば、アームのチップは1兆個、地球上にばらまかれる。20年後には全世界のCPUの圧倒的大半になっているだろうと。つまり、地球上の森羅万象をより広く早く的確に把握できるようになる。そこからやってくる様々なデータ、これが、超知性の進化、人類の幸せへのカギになると僕は思っているんです。」(2016年8月5日日経ビジネスon lineより、一部編集)孫正義氏の事業戦略には、進化発展していく社会に貢献したいという強い信念がその軸となっていることがはっきりと読み取れる。松下幸之助によれば、この強い信念が成功へと導くのだと言うのである。

 ここで、改めて考えてみたい。松下幸之助が成功の秘訣だという「強く願う」あるいは「その実現への願いを“強固な信念”にまで高める」とは、具体的にはどういうことなのか?また、なぜ願望を“信念”のレベルにまで高めれば、成功につながるのであろうか?

 この点、いわゆる“成功哲学”が語られる際に、多くの場合に“信念の力”が鍵とされている点が、大変興味深い。例えば、アンドリュー・カーネギーから依頼を受け、米国において当時成功していた経営者200名にインタビューし、成功哲学を研究したナポレオン・ヒルは、その成果として、次の6つの成功の原則をまとめた。 

   ①自らの願望をはっきりさせること

   ②「それを実現する」と決断すること

   ③願望に信念を結びつけること

   ④詳細で体系的な計画を練ること

   ⑤パートナーの協力を得ること

   ⑥忍耐力を持って継続すること

 そこでは、自らの願望をはっきりさせ(①)て、その実現を決意する(②)だけでなく、その「願望に信念を結びつけること」(③)を挙げており、“信念”の力を活用することがその重要な要素とされているのである。

 “信念”は私たちの潜在意識のレベルにあるものと考えられる。それ故、潜在意識の力をどのようにうまく活用するかという問題とも言えるかもしれない。そうなると、未だ解明されていないことが多く、その全容の解明は、今後の専門家の研究を待つほかないが、現時点ではどのように考えることができるであろうか?

 この点、「七つの習慣」を著したスティーブン・R・コヴィー氏も、この“信念”の力に着目する。曰く、「人間は信念に従って、考え、行動するようになっている」 

 また、脳機能学者の苫米地英人博士は、次のように述べている。「人間の無意識は、過去に認識し、蓄積された記憶によって作られ、脳の中にその人にとっての“真実”として記憶しているもの(“信念”)に従って、自動的にその信念が現実化するような判断を下して行動しようとする。それは例えば「それは信じるに値するものだ」「私とはこういう人間だ」(=自己イメージ)という信念である。無意識は最も楽で自然な行動、即ち、自分の信念に従った行動を取るように働きます。信念と違った行動をするのはたいへんなエネルギーを必要としますし、大きなストレスになります。」

 ある目標を立ててそれに向かっている途上で、障害に遭い、失敗する場合がある。例えば、禁煙やダイエットをしようとして失敗する場合である。この時一体何が起きているのだろうか?

 心理学では、このような、人が自身の中で“矛盾する認知”を同時に抱えた状態、またそのときに覚える不快感を「認知的不協和(cognitive dissonance)」と呼んでいる。そして、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーは、次のような認知的不協和の仮説を提唱している。人が認知している“自分の内側の現実”と“外側の現実”に“矛盾”が生じた時に、その“不協和”を解決しようとして、自身の態度や行動を変更するというものである。ここでいう“自分の内側の現実”とは、自分の願望の実現した姿のことであり、“自分の外側の現実”とは、障害に遭い目標の実現が困難になっている姿である。

 しかし、ただ両者間に“矛盾”を生じるというだけでは、その矛盾を解決する方向としては、将来の目標を実現するか、または、現状に引き戻すか、の二通りがありうる。

 例えば、自分が煙草を吸うという事実と煙草を吸うと肺ガンになりやすいという二つの認知が“矛盾”したときに、その矛盾を解消するためには、煙草を止めるか、若しくは、「煙草を吸うと肺ガンになりやすい」という認知を崩すことのいずれかだ。

 後者は、例えば、煙草を吸っていても長寿の人もいるとか、交通事故で死亡する確率の方が高いと考えることである。ダイエットや禁煙を今度こそと決意しながら、途中で挫折してしまうのは、この後者のように目標達成の困難から目標を諦めることを自分勝手な歪めた解釈(“歪曲”)で“正当化”することで、“矛盾”を解消してしまい、結局“現状”に引き戻されるからである。ダイエットの場合も同様である。

 イソップ童話の狐と葡萄の話もこれと同じである。キツネが、たわわに実ったおいしそうなブドウを見つけて、それを食べようとして跳び上がるが、ブドウは高い所にあり、手が届かない。何度跳んでも届かず、キツネは怒りと悔しさで、「どうせこんなぶどうは、すっぱくてまずいだろう。誰が食べてやるものか。」と捨て台詞を吐いて取るのを諦めるという話しである。人は、目的や欲求が達成されなかったとき、その欲求と現実のギャップを埋めるために、 自分に都合のいい理屈で埋め合わせしようとする心理メカニズムが働く。心理学で「すっぱいブドウの理論」と言われるものである。

 しかし、現状に戻ることなく、将来の目標の実現の方向に向けることはできないものであろうか?

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#強く願う

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