• 宮崎 勇気

(3)「人類は選ぶ力を持っている」 ①


3.人間大事の経営

2)人間の本質を活かす-「すべては心の持ち方次第」「自分の心を使いこなす」

(3)「人類は選ぶ力を持っている」 ①

 松下幸之助は、先に述べた通り、そもそも経営は、単に“営利”を目的とする活動ではなく、“人間社会の発展”を目指して「人間が相寄って人間のために行う活動」であるとし、“人間の本質”を知らずして、経営をすることはできないと喝破した。経営者としての自分自身だけでなく、部下や取引先、顧客、株主等すべてが人間である以上、“人間の本質”を知り、それを活かすことが重要だと考えたのだ。

 丁稚奉公時代を含めて、長年に亘って数多くの人間を独自の感性で観察する中で、人間には、“無限の可能性”があること、また、同時に“心の弱さ”という“人間の現実の姿”を知った。そして、人間には、その本質として、人間自身を含めた“万物を活かす能力”があると信ずるようになった。私たち人間は、このような人間の本質のすべてを活かすことができる、即ち、そのような人間の“無限の可能性”を最大限に発揮させて行くとともに、その“心の弱さ”に打ち克つ手を打っていく、そして、さらには、その“心の弱さ”さえも逆に活かしていくということが人間にはできるし、それを実行するかどうかで仕事も人生も全く違ったものになってくるのだということを自身の体験を通じて感得したのである。

 そして、そのための“鍵”は、その“心の持ち方”にあること、しかも、人間には、それを自ら選ぶ能力があるのだということに気づいたのである。以下で順に見て行く。

 松下幸之助は、まず人間の心に着目した。

 曰く、「人間の心というものはおもしろいものである。ふだんは一貫目(注=約3.75kg)の荷物を重いと感じることがあっても、火事などのときは十貫目の荷物でも苦にならないという。理論上では一プラス一は二だが、人の心は一プラス一が三になったりゼロになったりすることもあって、数字のように理屈だけではなかなか割り切れない。だから、政治でも経営でも教育でも、その効果をあげるためにはこういう人間の心の複雑さというか、人情の機微をよく心得ていなければならないと思う。」(「思うまま」p.46)

 また、曰く「人間の心というものは、孫悟空の如意棒のようなもので、かぎりなく大きくもなり、また反対に小さくもなる伸縮自在のものだと思う。たとえば、恐怖を抱いたり、悲観をした上でものを考えると、心が萎縮して小さくなり、出すべき知恵、出るべき創意工夫も出ないようになってしまう。しかし、たとえ非常な困難にぶつかったとしても、“なにくそ、やればできるのだ”というように考えて、その困難に人一倍の努力をもって対処してゆけば、心も自然に大きくなってくる。その大きな心からはすぐれた創意工夫も生まれやすく、そこからその困難をのり越えることも可能になってくるであろう。」(「思うまま」p.30)

 人間の心の複雑性とともに、それが変化し易いものであること(“変化性”)、そして、そのような心の変化に応じて、気分や意欲、発揮しうる力も変わってくるのだということに気づいた。

 通常、企業において、業績が思わしくないときには、どの取り組みや活動に問題があったのか、あるいは、どの組織や仕組みに原因があったのかを反省したり、検討したりする。しかし、松下幸之助は違う見方をする。即ち、それらはいわば“現象”に過ぎないのであって、それらの現象がなぜ起こっているのかというその原因をさらに上流にまで辿って行くと、その根本原因は、結局経営者自身の物の見方や考え方に行き着くのだと考えたのである。

 曰く、「事にあたって行き詰まるということはない。行き詰るということは、行き詰るようなものの考え方をしているからである。」「経営というものは、正しい考え、正しいやり方をもってすれば必ず発展していくものと考えられる。それが原則なのである。」(「実践経営哲学」pp.81-82)

 そして、事業がうまくいかないときには、組織や取り組みなどを変える前に、経営者は、いわばその源流を正すこと、即ち、自身の心の持ち方や物の考え方自体を変えなければならないと言うのである。

 曰く、「人間が自らの願いを実現するためには、それを実現するに相応しいものの考え方や心の持ち方、態度や行動を現わしていくことが肝要である。」「何事もゆきづまれば、まず、自分のものの見方を変えることである。案外、人は無意識の中にも一つの見方に執して、他の見方のあることを忘れがちである。

 「どうも仕事がうまくゆかないとか、行きづまってしまったとかいう場合には、気をおとしたり、心も沈みがちになるのが人情の常である。しかし、そういったときでも、見方を変えて、今は苦しいけれども、これはより新しいものを生み出す一つの転機に立っているのだ、というように考えてみてはどうだろうか。そのように考えるならば、行きづまったと思っていた仕事も、いわば画期的な躍進をもたらす仕事だということにもなり、苦しい中にも希望も勇気もわいてきはしないかと思うのである。」(「思うまま」p.135)

 このように人間の心は、「孫悟空の如意棒のように自在に伸び縮みするものである」、つまり、極めて「変化性が高い」ということ、そして、“心の持ち方”が変われば、“物の考え方”や“気分”も変わり、“行動”が変わるということに気づいた。とすれば、そのような伸縮自在で奔放な人間の心に“受け身”で翻弄されるのではなく、むしろ「自分の心を使いこなす」、即ち、その時々の状況に応じて最も自分に役立つ心の持ち方を自ら積極的に選ぶことで、その力を最大限活用すればよいではないかと考えたのである。

 松下幸之助の“効果”を重視する極めて実践的な考え方の現れである。

 曰く「この広い世界には、自分は生きる価値がない、自殺しなければならないと悲観する人もあれば、どんなに苦労していても、天下はわが物であるという大きな気持ちで、おおらかに歩む人もあります。

 「同じ一つのことでも、それをどう見るかという見方によって、色々と違った見方ができる。そうして、その見方によって、自分自身の気持ちが変わってくる。どういう見方をしようと自由である。だから、少しでも自分のプラスになるような見方をすればよい。それで、自分の人生も明るくなる。・・・要は、どういう見方をするかによって、物事が良くも悪くもなる。

 これを逆に、人間というものが、自分の周りの環境の変化に翻弄されるしかないと捉えるのでは、人生を生きる意味はないし、面白くないではないかというわけである。曰く、「人は、自分にほとんど選択権がないと知ると無力になってしまう。もし自分を“無力な将棋の駒”だと思っていたら、様々な出来事は自分を別の方向に導き、全く異なる人生を歩ませていただろう。

 そこで、松下幸之助は、「人類は選択する力を持っている」との認識を持つに至り、どのような局面にあっても、常に自分にとってプラスとなる、積極的かつ肯定的な物の見方を意識して選んだのである。

 曰く、「私は、人間は自分の運命に責任を持ちうる自由意志を持っていると信じている。人間は選ぶことができる。・・・一つの道は平和と幸福につながり、今一つの道は、混沌と自己破壊につながる。

 「人間の心というのは、孫悟空の如意棒みたいなもので、耳の穴にも入るし、六尺の棒にもなる。自由自在やな。人間の心はそれだけ伸縮自在で、思い一つで変わってくるわけや。腹を立てていたことを感謝するようになったり、感謝していることでも腹を立てたりというようになってくる。そこで自分というものをどう制御するかやな。これが大事や。自分というものを使いこなすことができなかったら、人を使いこなすことなどできない。」(1980年8月25日)

 即ち、人間には、外部の環境如何に拘わらず、自分の“心の持ち方”を選ぶ自由と能力があるということ、さらに、人間の心というものは、鍛えることで使いこなすことができるようになるのだということ体得したのである。そして、松下幸之助自身、自分の運命に責任を持って“主体的に生きる”ことを選択したのであった。

 「人生でも仕事でもすべては心の持ち方次第だ」と喝破し、そのためには、“自分の心を磨き、成長させ、使いこなす”ことが大切だと強調する。曰く、「人間の心の持ち方というものは、このように自由自在、融通無礙なものである。こういう考え方に立つと、困難と思うことでも逆に喜ばしいことになってくる。人間の長い一生の間には、ことは違っても、心の働きによって、どのようにも考えられるものがある。」(「物の見方考え方」pp.72-73)

 「楽観か悲観か、積極か消極か、我が心のあり方いかんで、ものの見方が変わってくる。見方が変われば判断が変わり、判断が変われば行動が変わって、おのずと結果も変わってくる。壁を乗り越え、いい結果を生むために肝心なのは、やはりまず自分の心のあり方ではなかろうか。

 「人間の心の動き、働きというものは、孫悟空の如意棒のように伸縮自在であると思います。・・・困難な時にこそ、みずからの夢を開拓する、また会社の運命を開拓する、国家の運命を開拓するというふうに結びつけてゆくところに、人間のたくましさというものがあると思います。」(昭和33年1月経営方針発表会「わが経営を語る」p.47)

 ここでいう“人間のたくましさ”は、通常の意味とは異なり、どんなに過酷な状況に直面しても、自分の“心の持ち方”を自由自在に組み替えることで、前向きで積極的な心の状態を生み出し、新たな意義を見出し、目標を打ち立ててそれに邁進していくという、いわば心の力を“てこ”として困難に打ち克つ力のことを言っている。人間には、この心の持ち方を選択するという“たくましさ”が備わっているというのである。松下幸之助は、正にそのことを学問的アプローチからではなく、自身の経験と実践の中から掴みとったのである。

 この点、第二次世界大戦の際のドイツのナチスのアウシュビィッツ強制収容所での地獄のような日々を生き延びたユダヤ人の精神医学者ビクター・フランクルは、次のように述べている。曰く、「人間には、自分に起きた出来事や受けた刺激とそれに対する自分の反応との間に自分の反応を選択する自由がある」。

 また、会社や家庭、個人、人生のすべてに通じる成功の法則として「七つの習慣」を著

し、世界で最も影響力のあるビジネス思想家とされるスティーブン・R・コヴィー氏は、「この“選択する自由”という人間にしかない能力が、人間に“無限の可能性”を与えてくれるのだ。」と述べている。

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