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松下幸之助の経営哲学-その真髄の理解と実践のために-

世の中に優れた経営者と言われる人は多くいますが、”経営の神様”と言われたのは、松下幸之助だけです。なぜでしょうか?それは、卓越した観察力で様々な人々を観察する中で、人間の”無限の可能性”と現実の姿としての”心の弱さ”という相矛盾する本質を発見し、そして、それらの双方の本質を共に活かそうとして、”自分の心を使いこなす”こと、また、それを応用して他人を使うことを極めたからだと言えるのではないでしょうか。つまり、松下幸之助の経営哲学は、”人間学の集大成”とも言えるものです。

本サイトでは、これまで必ずしも十分に解明されなかった松下幸之助の経営哲学の機能とメカニズムを現代の神経科学や脳科学、心理学、神経言語プログラミングなどの知見にもとづいて解明し、その全体像を明らかにして体系化したものです。これまで松下幸之助の経営哲学は知識として頭で理解することはできても、本当の意味で実践することは必ずしも容易ではありませんでした。しかし、本サイトが解明したその経営哲学を”血肉”となるほど自分自身の”信念”とすることができれば、その経営に、また、人生に自然と実践することができるようになるでしょう。そうすれば、結果は自ずとついてくるものだと言えましょう。                                    

 

                           2016年5月1日 著者 宮﨑 勇気                 

(6)快楽苦痛の原則を克服し、さらに逆に活用する ④

October 21, 2016

3.人間大事の経営

 

2)人間の本質を活かす-「すべては心の持ち方次第」「自分の心を使いこなす」

 

(6)快楽苦痛の原則を克服し、さらに逆に活用する ④

 

 次に、“痛み”の原則の克服である。

 

 

 人間は、辛いことや苦しいことを避けようとする傾向がある。困難で辛い“荊の道”よりも楽で行き易い“易き道”を選ぶのだ。自分が可愛いから、自分を追い込むようなことはせず、程々のところで妥協し、「お茶を濁しておく」のである。目標を設定する際には、容易に達成できる低い目標でお茶を濁そうとするし、目標を実現する途上で、困難や障害に遭遇したときには、それらを克服しようとするのではなく、簡単に諦めてしまう。自分が苦痛を味わうことは避けたいし、安易な道を選ぶことについて、自分一人を納得させれば済むからである。このように、人間というものは、“自分の為”だけにやるというのでは、意外に“力”は出ないものだ。

 

 

 しかし、時には“荊の道”を進まなければならない場合もある。否、むしろ多くの場合に大きな成功につながるのは“荊の道”だと言ってもよい。そのような時に、辛いとか、苦しいと言って逃げていては、大きな成功を成し遂げることはできない。“易き道”を採れば、それなりの成果しか生まれないのは、ある意味当然である。

 

 

 このような人間に、予想される“痛み”を乗り越えさせ、荊の道を選択させるにはどうすべきか?

 

 

 この点、松下幸之助は、「社会の発展の原動力となる」“世の為人の為に役立つことをする”ために事業活動をやっているのだとの正しい事業の目的を与え、社会的に意義のある“正しいこと”をやっているのだとの“使命感”を信念として持たせることによって、また、“社会の公器”としての“責任感”を持たせることによって、苦痛を克服させたのである。“世の為人の為に”やるんだと心の底から本気で思ったときには、その“使命感”から“高い目標”にも挑戦する力が湧いてくるものであり、また、その“責任感”から目の前の障害や困難にも簡単には諦めなくなる。自分だけの問題ではなくなるからである。むしろ人々の為に、高い目標に挑戦しなければならない、あるいは、人々の為に障害や困難を克服しなければならないという“使命感”“責任感”“力”を生み、“荊の道”を選択させ、また、目的実現の途上で現れる様々の障害や困難にも負けずに、それらを克服させるのである。

 

 

 そのための“鍵”が、「私的欲望を公的欲望に転換させる」ことにあった。これが、先に述べた利他的な本質を覚醒させ、“苦痛”を超える“快”に気づかせること(“快”の原則の活用)と相俟って苦痛を克服させるのである。それ故に、この点が松下幸之助の経営哲学の中心テーマとなったのである。

 

 

 さらに“痛みの原則”の活用である。

 

 

 先に述べた“痛み”を避けるような思考や行動を取るときに最大限働くという人間の脳の特徴を、松下幸之助はどのように活かしたか?

 

 

 それは、経営幹部や社員に対して、常に“危機感”を抱くことを求めたことである。曰く、「危機がないのではない。危機を発見する努力を怠っているのだ。どのような組織にも危機は必ず忍び寄っている。」「危機とは、今まで通りに安住し、転機の自覚のないことをいうのである。」(「続道をひらく」p.109)

 

 

 普段私たちは、手を抜いているわけではないし、それなりに努力もしていると思っている。しかし、実際には自分の力を100%出し切っている人は少ない。他方、“このままでは、本当に会社が潰れる”“自分の身が危ない”と感じる程の危機意識を持ったときには、人間は普段の実力の100%を超える、いわゆる“火事場の馬鹿力”をも発揮する。それは、生命の危機に晒されたときに動物が示す本能、即ち、闘うか逃げるかを選択し、すべての能力をそこに集中するという本能からくるものである。

 

 

 松下幸之助が“痛みの原則”を活用した例として、当時5年連続赤字が続いていた電子レンジなどを製造販売する松下住設という子会社についての逸話がある。当時の実質的な経営責任者小川守弘氏の話から要約すれば、次の通りである。

 

 

 松下幸之助がある時、たまたま近くに用事があったついでに松下住設に立ち寄った。商品の説明など初めは、機嫌良く話を聞いていたが、最近の業績を聞かれて、「90億円の赤字です」と答えた瞬間、顔色がみるみる変わり、「けしからん。1000億円も売って、90億円の赤字とはどういうことや。」と物凄い剣幕であった。「資金400億円は直ちに引き上げる。」と言う。その場で本社の経理担当役員に電話をかけ、このような状態で資金を貸し続けていた責任を問い、叱責して、直ちに資金を引上げよと指示をしたのだ。

 

 

 これに対し、小川氏は「それでは、明日から困ります。仕入先に支払いができませんし、従業員の給料も払えません。それだけは、勘弁して下さい」と嘆願するが、松下幸之助は、「そりゃ、困るわな。」と涼しい顔である。そして、「それなら、わしが住友銀行の頭取に紹介状を書いてあげよう。それを持って住友銀行に行き、お金を借りればいい。その代わり、ただでは銀行は貸してくれんよ。幸い、この7500坪の敷地は担保に入ってないから、これを担保にして、君自身が納得し、銀行をも納得させられるような改革案を持って行けば、貸してくれるやろう。」と言い放ったのである。

 

 

 それから、小川氏は、部課長初めすべての経営幹部を集め、その経緯を話して、「改革案は自分だけではできないから、課単位で作ってほしい。これでうまく行かなければ、倒産だ。」と自ら覚悟を決め、また、社員に対しても同じ覚悟を求めた。

 

 

 それからというもの、部課長を中心に死にもの狂いで3年の商品計画を見直し、技術と営業で徹底的に話し合い、そこから、研究テーマを絞り込んだ。また、品質管理も、それまでのように統計を取るだけではなく、ロスコストを徹底的に洗い出し、それらに対策を立てて行った。

 

 

 こうして、全社を挙げて取り組んだ結果、住友銀行から融資を受けることができ、事業も3年目には6.6%の営業利益が出るようになり、5年後には、8%となった。

 

 

 個々の具体的な対策ももちろんあったが、最も有効であったのは、小川氏によれば、松下幸之助が、実際に資金を引き上げたことによって、自分を含めて、全社員の“意識”が変わり、本当の危機意識が生まれたということに尽きると言う。その結果、全社が一丸となって、死に物狂いで一から改革案を考え直し、しかも、それをやり抜くことができ、事業の再建に成功したのであった。一言で言えば、“会社が潰れる”“自分が職を失う”という自分の身に直接降りかかってくるとの本当の危機感が、経営幹部と社員を“本気にさせた”のだ。意識の違いだけで、人間はこうも変わるのである。

 

 

 この点、松下幸之助は、次のように述べている。「進退きわまったときの人間ほど強いものはない。「やらざるを得ない。これをやらなければ、あす死んでしまう」くらいの気持ちがあれば、たいていのことは成就するものだ。」「今、諸君の場合、まだ進退きわまっていないわけやな。余裕綽々としている。だから、みんなが進退きわまって、そして一致団結してこれをやろうとなったら、もう天下でも取れるわ。」(1983年9月22日)松下幸之助は、このようにして“痛みの原則”を活用したのである。

 

Copyright © 2016 Yuki Miyazaki  All rights reserved.

 

 

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