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松下幸之助の経営哲学-その真髄の理解と実践のために-

世の中に優れた経営者と言われる人は多くいますが、”経営の神様”と言われたのは、松下幸之助だけです。なぜでしょうか?それは、卓越した観察力で様々な人々を観察する中で、人間の”無限の可能性”と現実の姿としての”心の弱さ”という相矛盾する本質を発見し、そして、それらの双方の本質を共に活かそうとして、”自分の心を使いこなす”こと、また、それを応用して他人を使うことを極めたからだと言えるのではないでしょうか。つまり、松下幸之助の経営哲学は、”人間学の集大成”とも言えるものです。

本サイトでは、これまで必ずしも十分に解明されなかった松下幸之助の経営哲学の機能とメカニズムを現代の神経科学や脳科学、心理学、神経言語プログラミングなどの知見にもとづいて解明し、その全体像を明らかにして体系化したものです。これまで松下幸之助の経営哲学は知識として頭で理解することはできても、本当の意味で実践することは必ずしも容易ではありませんでした。しかし、本サイトが解明したその経営哲学を”血肉”となるほど自分自身の”信念”とすることができれば、その経営に、また、人生に自然と実践することができるようになるでしょう。そうすれば、結果は自ずとついてくるものだと言えましょう。                                    

 

                           2016年5月1日 著者 宮﨑 勇気                 

(2) とらわれない素直な心 ③

July 8, 2016

3.人間大事の経営

 

2)人間の本質を活かす-「すべては心の持ち方次第」「自分の心を使いこなす」

 

(2)とらわれない素直な心

 

 では、“素直な心”を持つことで、他にはどのような“効用”があるのであろうか?

 

 この点、松下幸之助は、その著書「素直な心になるために」に具体的に挙げている。

 

 第一の効用は、物事の実相が見えるようになり「為すべきこと」が見えてくることである。曰く、「素直な心になれば、物事の実相が見える。それにもとづいて、何をなすべきか、何をなさざるべきかということもわかってくる。なすべきを行い、なすべからざるを行わない真実の勇気もそこから湧いてくる。」(「実践経営哲学」p.112)

 

 企業の経営者にとって、この“何をなすべきか”を見極めることは、前述の通りその後に企業が向かうべき“方向”を定め、全社員が力を結集すべき“対象”とその“活動内容”までを決めてしまうという点において、最も重要な経営判断である。

 

 万一経営者の判断に“誤り”があれば、それ以降の活動はすべて無意味となるか、あるいは、むしろ企業の経営資源を無駄にするという意味で大きな損失となり、時に企業の倒産にもつながりうるからである。一方、それが正しいものである場合には、その企業の持てる力を結集して最も効率的に目標実現に向かわせるものとなる。

 

 また、それが“漠然”として明確でない場合には、企業の持てる力は分散し、効率が悪くなるし、成果も上がらない。

 

 それ故、松下幸之助は、「なすべきことをキチンとなしていれば、経営というものは必ずうまくいくものである。その意味では、経営はきわめて簡単なのである。」(「実践経営哲学」p.31)「何が正しいかを考え、信念を持って為すべきを為す。平凡と言えば平凡だが、それをするかしないかが、成否の分かれ道である。」と述べている。事業活動の現場におられる方は、如何に自分たちが“為すべきでないこと”をせっせと行って、多くの時間を費やしているということに改めて気づかれるのではないだろうか?

 

 経営判断の難しさについて、松下幸之助は、「一ついえることは、自分を中心に考えている場合に心が迷いやすい。自分を中心に考えると、心が迷いに迷って、なかなか決められない、ということがあるように思う。」(「決断の経営」pp.17-18)と述べ、「大切なのは、やはり真実を見るということだと思います。そして、そのためには、個人の欲をもってものを見てはいけない。なにものにもとらわれず心を空にしてものを見るという、いわゆる素直な心が必要です。」そして、「しばらく自分というものを考えから抜いてみる。そして、素直に全体のためにはどうあるべきかを考えてみることが大切である。そうすれば、迷ってばかりいたという状態からぬけ出して、これはこうすべきである、という答えがハッキリとわかってくる。」と述べている。これこそ、経営者が経営判断に迷ったときに、正しい判断をするための“極意”だと言ってよい。

 

 第二の効用は、そのように“私”を抜いて行った判断からは、“真の勇気”と“力強さ”が生まれてくることである。これに対して、私心にとらわれて自分の利益のために出された意思決定からは、そのような“力強さ”は生まれない。かえって“卑屈”になる。それ故、実行の段階で困難や障害に直面したときにその“脆さ”が出てしまう。

 

 自分の利益のためではなく、“社会の発展の原動力となる”ためにやっているのだ、“人々の役に立つ”ためにやっているのだ、“正しいこと”をやっているのだというところから“本当の力強さ”が生まれてくる。前述の通り、人間には、利他的な本質があるからだ。

 

 この点、松下幸之助は次のように述べている。曰く、「人間誰しも自分が大事であり、可愛いものである。そのことはごく自然な感情ではあるが、しかしそうした自分の利害とか感情にとらわれてしまうと、判断を誤ることもあるし、また力強い信念も湧いてこない。そうした自分というものを捨て去って、何が正しいかを考え、なすべきことをなしていくところに、力強い信念なり勇気が湧き起こってくると言えよう。」(「指導者の条件」p.77)

 

 第三の効用は、「日に新た」を実現していくことができる、即ち、「現状にとらわれることなく、常に何が正しいか、何が望ましいかということがおのずと考えられ、日に新たなものを生み出していくことができるようになる。」また、「どんな情勢の変化に対しても、柔軟に、融通無碍に順応同化し、日に新たな経営も生み出しやすい。」(「実践経営哲学」p.164)ということである。

 

 ところが、私たち人間は、往々にして“素直な心”を持つことができず、経営環境が変化しているにも拘らず、過去の自分の成功体験や固定観念などにとらわれて、変化自体に気づかない(焦点化の反面としての“削除”)か、気づいても、それを過小評価して(“歪曲”)、自ら変わることの必要性を認識することができないまま、自分は“変わる必要はない”と“決めつけ”る(“一般化”)。その結果、変わることができず、変化に適応できなくなる。

 

 松下幸之助は、この点「お互い人間は、とかく現状に安んずるというか、現状をもって事足れりとするような傾向に陥りがちではないかと思われます」と述べている。このように「現状に安んずる」のは、後述するホメオスタシス仮説から説明すれば、自分の“現状”に居心地のいい領域であるコンフォートゾーンがあるからであり、そこから外へ出ようすると、ストレスがかかり、ホメオスタシスフィードバックが働いて、“現状”へと引き戻されてしまうからだ。

 

 ではどうすればよいか?

 

 この点、松下幸之助は、「現状を固定したものと考えるのではなく、日に新たに変化していくものととらえるというような柔軟な心は、やはり素直な心になるところから養われてくるのではないか」と述べており、“素直な心”を基軸として“生成発展” “日に新た”というフレームを“信念”として持つことで、“現状”を固定したものではなく、常に生成発展していくものと捉えることができるようになり、 “現状”へのとらわれから脱却し、ニュートラルポジションを経由して“成功した未来の姿”へと思考の方向を転換し、コンフォートゾーンをも移行させるとともに、“成功した未来の姿”に向けて“自己変革”を必要なだけ繰り返していくことができるようになる。

 

 “素直な心”はそのような自己変革のプロセスの出発点として“現状へのとらわれ”にしばられた心を解き放ち、“生成発展”して行くための“自己変革”の必要性に気づかせてくれるのである。

 

 第四の効用は、「禍転じて福となす」、つまり、「危機に直面しても、志を失わず、よりよき道を素直に私心なく考えつづけていくならば、よき知恵も集まってきて、画期的なよき道がひらけてくる、また、これをチャンスとして受け止め、“禍転じて福となす”こともできるようになる。」(「素直な心になるために」p.89)ということである。

 

 “素直な心”を持つことによって、目の前の“禍”にとらわれず、そこから抜け出して、中立的なポジションを確保して視野を広げ、また、“生成発展”に向けた高い志を失わず、視点を上げて、目の前の“禍”を“発展への転機(チャンス)”と積極的に捉え直すことができるし、また、どんな状況にも必ず存在するプラスの要素を見出して、そこに意識をフォーカスしていくことで、そのような状況の打開策やヒントを発見することができる。そこで “より明るい物の見方を選ぶ”こともできるようになるのである。

 

 第五の効用は、「いらざる対立や争いがおこりにくくなって、和やかな姿が保たれるようになる。」(「素直な心になるために」p.97)会社内の内部紛争や派閥争い、さらには各部署が“部分最適”を考えて行動する姿は、会社としての事業の目的を共有できないままに、自分たちの部署の利害や感情にとらわれた姿と言えよう。

 

 第六の効用は、「正邪の区別」、つまり、「利害や感情にとらわれることが少なくなり、冷静に客観的に何が正しいかを見つめて判断するようになり、正邪の区別がはっきりする。」(「素直な心になるために」p.101)自分の利害や感情などにとらわれると、全体の一部しか見えなくなったり、目の前の現象の意味を自分に都合よく“歪め”て解釈してしまい、正邪の区別を誤るおそれがある。

 

 第七の効用は、「適材適所の実現」、つまり、「一人ひとりが自分の持ち味を十二分に発揮できるような適材適所の実現が進められるようになる。」(「素直な心になるために」p.105)また、「寛容の心、慈悲の心というものも生まれて、だから人も物も一切を生かすような経営ができてくる。」(「実践経営哲学」p.164)と述べている。

 

 このように“素直な心”を持つことによって私たちは様々な“とらわれ”から解放され、“とらわれ”ていたこと以外のものにも視野が拡がって認識することができるようになり、考え方もオープンになって、それまでの物の見方や考え方の“欠缺”や“歪み”を矯正し、“決めつけ”ることなく、物事の実相を“ありのまま”に見ることができるようになる、

 

 即ち、“素直な心”は、“とらわれ”から心を解放することによって、私たちの“知覚”と“判断”のプロセスにおける“削除”と“歪曲”“一般化”という3つのメカニズムが働く“核”を矯正し、現実世界をより広く、ありのまま客観的に知覚し、認識できるようにするとともに、そのような正しい認識の下に正しい判断基準に基づいて正しい判断をすることができるようにするものであると言えよう。

 

 “素直な心”の効用について、松下幸之助自身の言葉によれば、「ひと言でいえば、素直な心はその人を、正しく、強く、聡明にするのである。」(「実践経営哲学」p.164)ということになる。

 

 経営というものは、難しいように見えるが、一面易しいのだと松下幸之助は言う。「天地自然の理に従い、世間大衆の声を聞き、また社内の衆知を集めて為すべきことを行っていけば、経営は必ず成功する。」と断言する。但し、「そのためには経営者に“素直な心”がなくてはならない」というのである。

 

 その理由について、次のように説明している。曰く、「自分が正しいのだ、自分の方が偉いのだということにとらわれると、人の言葉が耳に入らない。衆知が集まらない。いきおい自分一人の小さな知恵だけで経営を行うようになってしまう。これまた失敗に結びつきやすい。」(「実践経営哲学」p.163)

 

 また、私心にとらわれると、自然の理法に反して無理をする。一時的に成功したことで慢心すると、世間大衆の声を聞こうとしなくなる。そして、何かにとらわれると、“為すべきこと”をしなかったり、“為すべきでないこと”をしてしまったりして、うまくいかないのだと言う。特に経営者が、何かにとらわれている場合には、経営自体がうまくいかなくなる。

 

 例えば、“他社との競争”にとらわれて、経営判断を誤り、その舵取りの方向を誤って、顧客のニーズよりも他社を排除しようとして際限のない価格競争に突入し、逆に人件費の安い新興国の企業に敗退する、あるいは、“二十世紀の成功体験”にとらわれて、経営環境の変化に気がつかず、あるいは、それを軽視して、従来のやり方に固執して、変化への適応が遅れ、顧客のニーズに応えられず、新興国の企業に遅れを取る。このように経営がうまく行かない場合の多くは、実は、その経営戦略や方針、手段などの前に、“経営者自身の心の持ち方”に起因するものだと言える。

 

 要するに、“経営者の心のあり方”が、“経営の姿”として、また、その結果として現れてくるのだと言っても過言ではない。

 

 つまり、経営者は、自らの目指す姿を経営の上に実現していくのに必要な権限を与えられているのであるから、正しい考え方を持つ経営者は、その正しい考え方に基づき、権限に基づいてあらゆる必要な手を打ち、その結果、自然と成果は上がるものである。逆に経営がうまく行っていないという結果から、翻って見れば、経営者が当初に定めた方向が誤っているか、必要な時に必要な手を打てていないか、組織が一丸となって全力で目標に向かっていないか、いずれにせよ経営者がその持てる権限を適時適切に行使しなかったということに尽きる。

 

 このように考えれば、その経営の失敗の原因は、やはりその経営者自身の“何かにとらわれた”心の持ち方とそれから出てくる“考え方”自体にあると言える。そこから組織のすべての行動が出てくる、すべての源なのだ。

 

 それ故、松下幸之助は、そのような様々なとらわれから自由になることが経営者にとって何よりも重要であり、そのためには、この“とらわれない素直な心”が経営者の心構えとして最も重要であると強調するのである。

Copyright © 2016 Yuki Miyazaki  All rights reserved.

 

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